ボルドーの白の実力と魅力
ボルドーというと赤ワインに注目しがちだが、白ワインも辛口・甘口とその実力は健在だ。今回、グラーヴ地区の「シャトー・スミス・オー・ラフィット」や「シャトー・オー・ブリオン」、メドックの「シャトー・コス・デストゥルネル」、「シャトー・マルゴー」そして「シャトー・ムートン・ロートシルト」、サン・テミリオンの「シャトー・ヴァランドロー」でも辛口白ワインが供された。
「シャトー・ピション・ロングヴィル・バロン」では、赤のグラン・ヴァンをはじめとするポイヤックやポムロールの後に、『シャトー・スデュイロー』の畑から生まれた辛口と甘口の白ワインをテイスティングできた。シャトー・スデュイローがシャトー・ピション・ロングヴィル・バロンと同様「アクサ・ミレジム」の傘下となったのは1998年。このシャトーを舵取りするクリスチャン・シーリー氏によれば、2004年に辛口のワインを造るプロジェクトをスタートさせたという。
「当初からセミヨンの比率が高いワインを造りたかった。セミヨンは適するテロワールで栽培すれば、その実力と個性を発揮する品種です」とシーリー氏。ソーヴィニヨン・ブランが世界中で栽培されているのに対し、セミヨンに適するテロワールは少ない。
シーリー氏はこのプロジェクトで、セミヨンがテロワールにとても敏感な品種だと気付いた。甘口プルミエ・クリュの「スデュイロー」の畑から、貴腐が付着する前のブドウを使った辛口の白『エス・ド・スデュイロー』も生産している。「ペサック・レオニャンのトップレベルのワインと同様に、ソーテルヌのプルミエ・クリュの畑でも偉大な辛口白を生み出せることを証明したかった」と続ける。
シーリー氏によると、2017年は貴腐ワインのグレートヴィンテージに挙げられるという。「貴腐菌が申し分のない状態で付着し、ブドウは酸味を備え、味わいはフレッシュさとバランスに優れリッチ。調和の取れたスタイルに仕上がった」とシャトー・スデュイロー17年ヴィンテージを絶賛。ボルドー大学でも17年の貴腐ワインについては豊かでパワフル、辛口白も15年や16年より成功を収めたと評価する。
幸運だった2017年「シャトー・ベイシュヴェル」
「シャトー・ベイシュヴェル」は、「シャトー・ラグランジュ」と同じサン・ジュリアン村に位置しながら霜の被害を免れた。支配人のフィリップ・ブラン氏は「ラグランジュからは3キロほどしか離れていませんが、ジロンド川に近いシャトーほど被害は軽減されたのです」と語る。同支配人によれば、この霜でボルドーの約半分が被害をこうむったが「私たちは本当に幸運だった」と安堵した表情を浮かべる。
2017年のブドウの生育サイクルは早く進み順調だった。しかし9月に入り、ブドウの収穫を控えた時期に降雨量が多く、収穫を早めざるを得なかった。メルロの収穫が始まったのは9月18日。その後天気は回復、これが収穫の遅いカベルネ・ソーヴィニヨンには良い結果をもたらし、10月3日に無事収穫を終えた。
今回17年ヴィンテージから14年ヴィンテージまで、さかのぼってテイスティングをする機会に恵まれた。6月に瓶詰めを控えた評価の高い16年ヴィンテージは、新しい醸造所で初めて醸造されたワインであり、ブラン氏の説明にも熱が入る。
口当たりが良い印象の17年ヴィンテージに比べて「16年はエレガンスと強さが共存するワインで、50年ぐらいは熟成が可能だと思います。17年はそこまでのポテンシャルはないかもしれませんが、20~25年くらいは十分寝かせることができますね」。またグレートヴィンテージと言われる15年も16年と同様のポテンシャルを秘めるが、同氏はストラクチャーの点で16年の方が若干優ると感じている。14年ヴィンテージは今までの中で、メルロの比率が51パーセントと最も高く、熟したタッチとアルコール感が特徴だ。
「将来的にはカベルネ・ソーヴィニヨンの植樹比率を上げ、現在の52パーセントから60~65パーセントにしたい」と言う。その理由は、このシャトーのように砂利や砂質土壌には高貴でエレガント、ストラクチャーが備わったカベルネ・ソーヴィニヨンが適するからと力説する。2年前に完成した新ワイナリーとともに、今後の発展が楽しみな注目のシャトーである。