メルロが秀逸なヴィンテージ
今年も4月1日から5日まで「ユニオン・デ・グラン・クリュ」(UGBC)主催による2018年ヴィンテージの試飲会がフランス・ボルドーで開かれた。2018年のポイントは三つ、一つは冬から春までの冷たい雨、そして6月のベト病の蔓延、3つめは7月中旬から10月まで続いた乾燥した気候だ。とくに収穫期にかけて雨が降らず、生産者はブドウが完全に熟すまで待つごとができ、赤ワインにとって素晴らしい年だった。
長い生育期間によって、ブドウは完熟し、タンニンもしっかり熟した。メルロの出来栄えが秀逸で、メルロの比率や味わいをどのように表現したかがシャトーの個性につながったように感じた。
完熟したブドウをどう表現するか
ポイヤック格付け2級「シャトー・ピション・ロングヴィル・コンテスト・ド・ラランド」で2012年から醸造責任者を務めるニコラ・グルミノー氏は「2018年ヴィンテージは弓で矢を放ったようなまっすぐで奥深い2010年と、果肉をかじるような果実の厚さを感じる2016年のいいところを足して2で割ったような味わい。ポイヤックの力強さと絹のような滑らかさ、果実のバランスがとれており、こういうワインを私は造りたかった」と満足そうに話した。
また「2018年は酸と旨味、タンニン、アルコールなどさまざまなエレメントが非常に高いレベルで上手くバランスがとれた年、偉大なヴィンテージの2016年と比較できる仕上がり。早いタイミングでも旨味が感じられるし、アルコールが高くてもそれを感じさせない」と分析するのは、サン・ジュリアンの格付け3級の「シャトー・ラグランジュ」の椎名敬一副会長だ。
2018年ヴィンテージはカベルネ・ソーヴィニョン67パーセント、メルロ28パーセント、プティ・ヴェルド5パーセントで畑の植え付けとほぼ同じ比率。「シャトー・ラグランジュ」ではカベルネ・ソーヴィニョンの比率は例年75パーセント程度だが、2018年はメルロの出来が非常に良く、比率が高くなったとのこと。豊かな果実味と熟したタンニン、酸のバランスがよく、今飲んでも美味しく、また熟成の可能性を十分に感じた。
7月以降の暑く乾燥した気候によって完熟した果実味感じるスタイルが多い中、アルコール度数も13.4パーセントと低く、抑制された味わいが印象的だったのが、ポイヤック格付け1級の「シャトー・ラフィット・ロートシルト」だ。テクニカル・ディレクター(=醸造責任者)であるエリック・コレール氏はあえてそう造ったのだとボルドーのシャトー関係者やジャーナリストの間で評判になっていた。2018年の豊潤な果実をどうするか、天候に恵まれた年だったがゆえに、高いレベルでシャトーの哲学が表現された年だったように思う。
「シャトー・ピション・ロングヴィル・コンテスト・ド・ラランド」醸造責任者ニコラ・グルミノー氏。2012年の就任以来、自分の造りたいワインができたと満足していた様子
「シャトー・ラグランジュ」椎名敬一副会長
ベト病の発生により、収穫量は1/3に激減。信念を通したビオディナミ生産者
偉大なヴィンテージと言われる2018年だが、その一方でビオディナミを実践する生産者は非常に難しい年だった。原因は6月から7月にかけて発生したベト病だ。メドックで100パーセントビオディナミを実践する生産者の筆頭、ポイヤック格付け5級の「シャトー・ポンテカネ」とマルゴー格付け3級の「シャトー・パルメ」、この二つのシャトーは、ともに生産量が3分の1に激減した。
「シャトー・パルメ」の収穫量は1ヘクタール当たり11ヘクトリットル、わかりやすく言うなら、ブドウの樹1本から、たったひと房しか収穫できなかった状況で、「シャトー・パルメ」の歴史上最低量だった。ベト病の勢いは非常に強く、数日の間で瞬く間に広がり、まったく手の打ちようがなかったという。
「シャトー・パルメ」のコミュニケーションディレクター、アナベル・グルリエールさんは「ビオディナミにしたことで以前よりずっとテロワールを表現できているが、もしかしたら畑のバランスが未完全なのかもしれない」と話した。現在、ビオディナミにも使える海藻由来の薬の研究も進めているのだという。しかしこうも続けた「もし今後2018年と同じようなベト病等の発生があった場合には、会社の存続にもかかわり、農薬の使用を少し戻すことも検討している」。経営を考えるなら当然のことだろう。収量が例年の3分の1と聞いて最初は耳を疑ったが、これがビオディナミの難しさであり、こうしたリスクを負っているのがビオディナミを実践するということなのである。
今までに見たことのない凝縮度と力強さ、並外れた記憶に残るヴィンテージ
ベト病の被害をもろに受けた「シャトー・ポンテ・カネ」も「シャトー・パルメ」も、残ったブドウの房にはブドウの樹からすべてのエネルギーが注ぎ込まれ、結果として、今まで味わったことのないような非常に複雑性のある濃縮したブドウを収穫することができた。
「シャトー・パルメ2018年」はカベルネ・ソーヴィニヨンが53パーセントと例年に比べて高く、メルロ40パーセント、プティ・ヴェルド7パーセント。「アルテ・レゴ・ド・パルメ」は造っていない。
「量が少なかったという理由だけではなく、ブドウの質が濃縮した奥深い味わいで、パルメのスタイルそのもの。収穫したほぼすべて、正確に言えば90パーセントをシャトー・パルメに使った」とアナベルさん。「シャトー・パルメ」ではブドウの質は高かったが熟す期間にばらつきがあり、収穫はトータルで1カ月、またベト病によって干しブドウのように乾燥した実が入らないよう、例年よりもさらに厳しい選果を行った。
「シャトー・パルメ2018年」はパルメらしい絹のような滑らかな口当たりに、凝縮し果実と細やかなタンニン、フレッシュさも感じられる非常に調和のとれた素晴らしい味わいだ。「シャトー・ポンテ・カネ2018年」も上品な酸が感じられる凝縮した果実には複雑さもあり、エレガントなスタイルに仕上がっていた。
二つのシャトーとも2018年ヴィンテージの売り出し価格は、その並外れた味わいと収量が少ない希少性の高さから、高い値が付くだろう。しかし収量は3分の1である。偉大なヴィンテージと言われる一方で、ビオディナミ生産者の哲学、「テロワールの表現」という言葉の裏にある崇高な信念と、突き付けられたシャトーの現実を目の当たりにし、2018年は非常に印象的なヴィンテージとなった。
ビオディナミを実践する「シャトー・パルメ」はベト病の発生によって収量が3分の1に激減した