フランスはブルゴーニュ地方では、毎年11月にブルゴーニュ最大のワイン祭り「栄光の3日間」が開催される。世界各国から多くのワイン愛好家が集まりボーヌの街が賑わった。
この3日間には「オスピス・ド・ボーヌ」のオークションのほか、多くのイベントが開催される。その中から、特に印象に残った催しをいくつか紹介しよう。
●第147回「ブルゴーニュ・グラン・ヴァン祭」
「オスピス・ド・ボーヌ」のオークションに合わせて金、土、日曜日の3日間、ボーヌ市民会館(パレデコングレ)でブルゴーニュ栽培家組合(CAVB)主催の「第147回 ブルゴーニュ・グラン・ヴァン祭」が開かれ、2018年産、2019年産を中心とするブルゴーニュの約1000ドメーヌ、3000ボトルが出展された。同時に、ジャーナリストを対象にジュヴレ・シャンベルタン、クレマン・ド・ブルゴーニュ、モンタニの三つのAOCを紹介する特別試飲会が開かれた。
●「ロワシャンベルタン」試飲会と夕食会
AOCジュヴレ・シャンベルタンの新しいミレジムを紹介する恒例の試飲会が11月14日にジュヴレ・シャンベルタン村の催し物会場、「エスパス・シャンベルタン」で開催された。今回出展されたのはジュヴレ・シャンベルタン・ヴィラージュ、プルミエ・クリュ、グラン・クリュの2018年産、合わせて約120本。約40ドメーヌの代表的なボトルを横並びに試飲しミレジムの水準を確認できる絶好の機会とあって多くの買い付け業者が参加した。
また、ロワールの四つのアペラシオンの栽培家代表、メディア関係者ら約50人を招待したロワシャンベルタンの夕食会が、ジュヴレ・シャンベルタンの多目的施設「ル・コンプレックス」で開かれ、ジュヴレ・シャンベルタンの栽培家が持ち寄った2008年産を楽しんだ。
●「ブシャール・ペール・エ・フィス」試飲夕食会
「ブシャール・ペール・エ・フィス」では「シャトー・ド・ボーヌ」でのメートル・ド・シェのフレデリック・ヴェベール氏とジル・ド・ラルジエール社長が出席して2018年産の紹介を行った。その後、昨年ブシャール・ペール・エ・フィスのCEOに就任したトマ・セテール氏主催の夕食会が開かれ、『シュヴァリエ・モンラッシェ1990年』『コルトン2003年』『プルミエ・クリュ』『ボーヌ・グレーヴ・ヴィーニュ・ド・ランファンジェジュ1947年』などが紹介された。
2018年産はブシャール・ペール・エ・フィスのフレッシュでエレガントな本来のスタイルを再び取り戻し、極めて高い水準に達している。特にコルトン、クロ・ブージョ、エシェゾー、ボンヌ・マール四つのグラン・クリュは高貴なピノ・ノワールの表現が見事に表現されている。白はいつもの様にムルソー・ペリエールとコルトン・シャルルマーニュが酸と充実した厚みのある味わいで抜きんでている。
今回の試飲で特に興味を引いたのはブシャール・ペール・エ・フィスが所有するシュヴァリエ・モンラッシェの四つのテラスの比較試飲だ。グラン・クリュ・シュヴァリエ・モンラッシェのブドウ園は全体で7.47ヘクタール。うち、ブシャール・ペール・エ・フィスが所有する2.33ヘクタールのブドウ園は図の様に大きく四つテロワールに分かれていて、1992年以来別々に醸造し、その後ブレンドしている。
今回試飲したのは別々に熟成した特別キュヴェ。私の印象では、中ほどの斜面に広がる『テラス2』が濃縮度、複雑さともに最良だ。そして『テラス1』と『テラス3は』それぞれ厚み、ミネラルを補う役割を果たしている。最上部の『テラス4』は面積の点でもわずかでやや個性が弱い。驚いたのはこれら四つのキュヴェをブレンドした最終キュヴェの見事なバランスだ。それぞれのテラスの持つ厚み、ミネラル、酸、繊細さが合わさり奥行きのあるエレガントなポリフォニーを奏でている。
最後にモンラッシェを試飲したが、シュヴァリエ・モンラッシェの豊かな柑橘類の心地よさとは異なりミネラルでかなり酸があり、十分に溶け込むまでに少し時間を必要とするように感じた。シュヴァリエ・モンラッシェとモンラッシェは道一つ隔てて隣接しているが、2018年もかなり異なるニュアンスのワインだ。
●「ジョゼフ・ドルーアン」の試飲会
2018年産の赤、白合わせて17本を試飲したが、どれも調和の取れた安定した質でワイン愛好家の興味をそそる味わい深いドルーアンスタイルのワインだ。特に白はアロマの表現が豊かで大変興味深い。一方赤は色が濃く、かなり構造がしっかりしたワインで十分長く熟成できるだろう。白では『ピュリニィ・モンラッシェ・プルミエ・クリュ』『フォラチエール』『コルトン・シャルルマーニュ』が特に印象に残った。グラン・クリュ、モンラッシェはコルトン・シャルルマーニュとは全く表現が異なる。現時点ではコルトン・シャルルマーニュの表現の方が分かりやすい。
赤ではドルーアンのスペシャリテ『ボーヌ・プルミエ・クリュ』『クロ・デ・ムーシュ』の表現が飛びぬけて豊かだ。また『クロ・ド・ヴージョ』は生産家の数が多くガッカリするボトルも少なくないが、ドルーアンのクロ・ド・ヴージョは本当に充実した、奥行きのある偉大なワインだ。最後に試飲した『シャンベルタン・クロ・ド・ベーズ』と『ミュジニィ』は2018年産もグラン・クリュに相応しい別格の風格を持っている。
●「ジャン・クロード・ボワセ」の試飲会
「ジャン・クロード・ボワセ」は2018年にニュイ・サン・ジョルジュの旧修道院跡に大聖堂を彷彿させる荘厳な作りの新しい醸造所を建設した。ここで生産責任者のグレゴリ・パトリア氏と瓶詰めした2016年産、2017年産、そして樽熟成中の2018産、合わせて25本を試飲した。
ジャン・クロード・ボワセのアリゴテはグラン・クリュと全く同じ樽醸造、樽熟成。アリゴテのロールスロイスだ。特に2017年産は素晴らしい。試飲した2018年産の中では『ボーヌ・プルミエ・クリュ』『レ・グレーヴ』『ヴォーヌ・ロマネ・ヴィラージュ』『ジュヴレ・シャンベルタン・ヴィラージュ』が興味深い。『グラン・クリュ・クロ・ド・ラ・ロッシュ』は間違いなく2018年の最良のキュヴェだ。
●「ルイ・ジャド」の試飲会
「ルイ・ジャド」は競売会の前日、11月16日にルイ・ジャドを扱う世界の流通業者、約300人を招きボーヌ郊外の醸造所で、2018年産と2019年産の試飲会を開いた。2019年産は赤、白ともにルイ・ジャドのワイン造りの力をまざまざと見せつける見事な出来で感嘆した。白は特に『バタール・モンラッシェ 2019年』が素晴らしく、厚み、酸、内容ともにほとんど完璧といってよい出来だ。赤は『コルトン・グレーヴ 2018年』の濃縮度が印象に残った。
●「シャトー・ド・サントネ」の試飲、昼食会
2019年5月にシャブリの「シモネ・ファーヴル」から「シャトー・ド・サントネ」の責任者に移籍したジャン・フィリップ・アルシャンボー氏がワインジャーナリスト招き、試飲、昼食会を開いた。
シャトー・ド・サントネは14世紀にフランス王の息子、フィリップ・ル・アルディ氏が住んだ歴史的な建物で、ブドウ栽培のドメーヌとしても重要な役割を果たしてきた。2012年にフランスの総合金融機関「クレディ・アグリコール」が買収し、現在コート・ドール、コート・シャロネーズに96ヘクタールのブドウ園を所有し、18 AOCを生産している。2018年産は特に白が素晴らしい。中でも『シャサーニュ・モンラッシェ・プルミエ・クリュ』『アベイ・ド・モルジョ』『ピュリニィ・モンラッシェ・プルミエ・クリュ』『レ・フォラティエール』が印象に残った。赤は『ボーヌ・プルミエ・クリュ』『クロ・デュ・ロワ』の果実味が興味深い。
●「アルベール・ビショ」の試飲会
ネゴシアンの「アルベール・ビショー」も「オスピス・ド・ボーヌ」のオークションに合わせて、毎年、ニュイ・サン・ジョルジュの「ドメーヌ・デュ・クロ・フランタン」で世界の輸入業者を招き試飲会を開いている。
今回は2017年産を中心に、代表的な22のキュヴェを七つのグループに分け紹介した。最も印象に残ったのはグループNo5の3本。「ドメーヌ・デュ・クロ・フランタン」の『ボーヌ・ロマネ2017年』、「レ・ソルベ」の『モレイサンドニ・プルミエクリュ2017年』、「シャトー・グリ」の『ニュイ・サン・ジョルジュ・プルミエ・クリュ2017年』。いずれもクラシックなミレジム2017年の典型で、心地いい調和の取れた果実味が味わえる。
●「ブシャール・エネ・エ・フィス」
グループ・ボワセ傘下の「ブシャール・エネ・エ・フィス」は2008年から毎年「オスピス・ド・ボーヌ」のオークションに合わせて2日間、小皿料理とワインのマリアージュを楽しむ催しを開いている。
今年は「ワインの色彩」をテーマに透明度、清澄度、濃縮度、輝き、色彩のニュアンスなど、色の表現に関するパネル展示を行った地下カーヴで『クレマン・ルイブイヨ 2014年』、『ムルソー 2017年』、『ボーヌ・プルミエ・クリュ、キュヴェ・シロ・ショードロン』『オスピス・ド・ボーヌ 2016年』『コルトン・レ・マレショード 1996年』など7本を紹介した。