1月、ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノ協会主催によるオンラインセミナー「The Energy of Sangiovese in Tuscany」が開催された。ナビゲートはワインジャーナリストの宮嶋勲氏。産地の魅力を伝えるとともに、8生産者のテイスティングが行われた。
最初に協会長のアンドレア・ロッシ氏が産地における三つの新しい動き――「ワインの呼称表示に〈トスカーナ〉を入れることを義務化」「品質を高める」「持続可能な取り組みを行う」を紹介した。
呼称表示に「トスカーナ」をプラス
新しい呼称は「ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノ・トスカーナ」で、ワインラベルなどへの表記が義務化される。ブランド力のある名称「トスカーナ」を明記することでよりわかりやすく、消費者に強くアピールすることを狙っている。
「トスカーナの文化、歴史、そしてワインの品質の高さを証明できる重要な動きです」とロッシ会長は語る。
副会長のスザンナ・クロチャーニさんは「この産地はブドウ畑がおよそ2000ヘクタール。年間生産量は約650万本と規模は大きくないですが、古い歴史を誇ります。ワインが名声を得たのはルネサンス期。18世紀にはトスカーナを代表するワインとなり、メディチ家が産地を明示して交易を行っていました」とワインの歴史を伝えた。
全域で持続可能な取り組みを行う
これまで個々のワイナリーが独自に取り組んできた、持続可能性を意識したワイン造り。
「今後は産地全体で取り組むことになります。地球上で起こっている大きな問題は、それぞれの生産者という小さな単位では対応できないからです。私たちは地域一体となり取り組む最初のワイン産地になります」とロッシ会長は自信を持って話す。
2017年、16年を試飲
8生産者がzoomで参加し、代表的なワインを紹介した。ワインは事前に参加者のもとに届けられた。ヴィンテージは2017年と16年。
それぞれのヴィンテージの特徴を宮嶋氏はこう解説した。
「17年は暑いヴィンテージで、冬も温暖でした。4月の遅霜の影響で生産量が減りましたが、結果としては果実が乗ったいいワインになりました。16年はクラシックなヴィンテージ。エレガントな味わいです」
「ファットリア・デル・チェッロ」の『シリネオ(ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノ DOCG) 2017年』
「チェリーやスパイスの香りが豊かで飲みやすいワインです。酸が立ち過ぎていなくて、ビロードのようなタッチ。産地の特徴が出ています」と宮嶋氏。
「17年は暑さが影響し過熟のトーンが出やすいのですが、モンテプルチャーノはそれがないですね。モンテプルチャーノはもともとタンニンが成熟しにくく厳格な味わいになりやすいため、17年のような暑い年のほうが評価が高くなるのです」
輸出セールスマネジャーのジャコモ・アラーリ氏も「遅霜と猛暑で生産量は減りましたが、ブドウを選別していいワインを造りました」と話す。「」と宮嶋氏はコメントした。
「ポリツィアーノ」の『ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノ 2017年』
「80年代から近代化を進めているワイナリーで、ワイン評価誌『ガンベロ・ロッソ』で高く評価された最初のワイナリーです」と宮嶋氏。ワインは「スパイシーで、収れん性のあるタンニンが余韻に残ります。ポリツィアーノは樽を使い近代的な造りを行っていましたが、この10年はクラシックな造りに変化し、エレガントで落ち着いたワインになりました」
「サルケート」の『ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノ 2017年』
「サルケート」は先代のオーナーがワイナリーを購入して以来、サステイナブル(持続可能な産業)の取り組みを行っている。
「すべてにおいて持続可能な取り組みを考えていますが、特に重点を置いているのがCO2
の削減と生物多様性の保持、水の使用です。例えばトラクターの使用回数を減らすことで排出ガスを抑え、畑の生物を守り、電気を節約しています」
この取り組みがワインの味わいに影響するかどうかはわからないが、と前置きし「ワインはエレガントなスタイルです。ブルゴーニュ・ワインを思わせ、地中海の灌木のようなニュアンスがあり、デリケートです」と宮嶋氏はコメントした。
オーナーのミケーレ・マネッリ氏は「上品で風通しのいい味わいです。森に囲まれた粘土質が多い畑のため、フレッシュでエレガントなワインが生まれるのです」と話した。
「カーサ・ヴィニコラ・トリアッカ」の『サンタヴェネーレ(ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノ DOCG)2016年』
ロンバルディア州ヴァルテッリーナから進出してきた「トリアッカ」。醸造家ヴィットリオ・フィオーレ氏を迎え、安定したワインを造っている。
「16年というヴィンテージのため厳格な味わいですが、この産地らしさが出ています。もう少し待ったほうがいいかもしれませんね。今飲むなら、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ(フィレンツェ風ステーキ)と合わせると、このタンニンが楽しめそうです」と宮嶋氏。
「コントゥッチ」の『ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノ 2016年』
「伝統的なスタイルとは何かがわかる生産者です」と宮嶋氏。オーナーのアンドレア・コントゥッチ氏は「1000年の歴史を持つ家で、40世代続いています。ブドウは固有品種、醸造には大樽だけを使います」と話す。
「明るいルビー色でスミレやチェリーの香り。内気な感じで香りは大きくは広がりません。最初はビロードタッチで、後にグリップのあるタンニンが残ります」と宮嶋氏。
「16年は偉大なヴィンテージです。ワイナリーのスタイルやテロワールが教科書のように表れていて、読み取りやすいですね」
「ヴェッキア・カンティーナ・ディ・モンテプルチャーノ」の『カンティーナ・デル・レディ(ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノ DOCG) 2016年』
「大規模な協同組合で、トップを走っている生産者です」と宮嶋氏。1980年代から上質なブドウを手掛け、このワインを造り続けている。
「ワインは青っぽいタンニンがあり、それが生き生きとした印象を与えています」と宮嶋氏はコメントした。
「ヴィッラ・サンタンナ」の『ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノ 2016年』
オーナーをはじめ全員女性というワイナリー。
「エレガントでデリケートなワインです。飲み終わった後に残るタンニンがこの産地らしいところ。落ち着いていて、繊細な味わいです」と宮嶋氏は語る。
「テヌータ・ヴァルディピアッタ」の『ヴィーニャ・アルフィエロ(ヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノ DOCG) 2016年』
単一畑の樹齢約70年のブドウで造るワイン。
「粘土質が多いエリアで、硬いタンニンが特徴です」とオーナーのミリアム・カポラーリさん。18カ月樽熟成した後に12~18カ月寝かせてリリースする。
「黒い果実やプラム、ダークチェリーのトーンがあります。この産地では良い年はこういった深みのあるワインができる。深さと力強さ、堅固なタンニンが出ています」と宮嶋氏。
2017年、16年ヴィンテージのヴィーノ・ノビレ・ディ・モンテプルチャーノ。
「17年は近付きやすい味わいで、16年は造り手が目指すワインやテロワールの特徴がよく出ていることがわかりますね。またこの産地のワインは10年前と比べて確実にレベルアップしています。以前は硬さがありましたが、それも今はほとんどありません」と宮嶋氏。
「かつてはトスカーナの近隣産地キアンティ・クラッシコとブルネッロ・ディ・モンタルチーノの間にあり、なかなか名声が得られず苦しんでいる産地でしたが、この5年くらいでアイデンティティーを確立しました」と語った。