フランスはボルドー、サンテミリオンにある「シャトー・アンジェリュス」を訪れ、ステファニー・ド・ブアール=リヴォアル社長に2021年産の質、市場見通し、そして新しいサンテミリオンの格付けから離脱した理由などを聞いた。

――2021年産をどのように評価していますか。

「2021年産は前の三つのミレジムである2018年、2019年、2000年に比べ大変異なる。率直に言って、2021年の天候は大変難しく、複雑なものだった。そんな中で、シャトー・アンジェリュスの生産チームはトップキュヴェの『シャトー・アンジェリュス』だけでなく『カリヨン・ダンジェリュス』についても予想を超える申し分のないワインを造り上げた。特にカリヨン・ダンジェリュスは、2015年以降、シャトー・アンジェリュス発展の新しい原動力として力を入れており、2018年産から使い始めた新しい醸造所のおかげでその特徴がはっきりと表現されるようになった。2021年産はさらにその個性に磨きがかかり一段質を押し上げることに成功した」

画像: ――2021年産をどのように評価していますか。

「カリヨン・ダンジェリュスはシャトー・アンジェリュスのセカンドワインとはいえ、同じ畑の降格ワインで作るセカンドワインとは異なり、アンジュリュスとは別の畑のブドウを使って造られており、独自のスタイルとアイデンティを備えている。特に2021年産のタンニンは絹の様で、同時に申し分のない密度を備え、フレッシュでバランスが良い」

――『シャトー・アンジュリュス 2021年』は一層エレガントさに磨きがかかっている印象を持ちました

「アンジェリュス 2021年の大きな特徴は、カベルネ・フランのブレンド割合が60パーセントに達していること。カベルネ・フランがこれほど多いミレジムは、アンジェリュスのこれまでの歴史の中で見つからない。地元でブシェと呼ばれるカベルネ・フランは、祖父の時代から受け継がれてきたもので、アンジェリュスの土壌に適応した特別の質を備えたカベルネ・フランだ」

画像: ――『シャトー・アンジュリュス 2021年』は一層エレガントさに磨きがかかっている印象を持ちました

「今後、改植時にカベルネ・フランを採用し、現在46パーセントの作付け比率を徐々に55パーセントくらいにまで引き上げることを考えている。ただ、シャトーの北向き斜面は粘土質でメルローが合う。だから、南向き斜面の植え替え時にカベルネ・フランンを植えることになる」

――フードル(大樽)の使用割合を増やしているのでしょうか?

「シャトー・アンジェリュスは長い間新樽100パーセントで熟成を行ってきたが、2018年にカベルネ・フランの一部をフードルでの熟成に切り替えた。2021年産は全体の60パーセントを占めるカベルネ・フランの約半分をフードルで熟成しており、以前のミレジムよりさらにカベルネ・フランの繊細さ、新鮮さを引き出すのに成功している。フードルの使用割合を増やすことで、樽香の影響を抑え、最大限のバランスを得ることができる。従来以上に果実味が増し、とりわけアロマの純粋さが際立っている。フードルでの熟成がアンジェリュスのワインのスタイルにインパクトを与えていることは間違いない」

画像: ――フードル(大樽)の使用割合を増やしているのでしょうか?

「フードルの影響について父と試飲しながら何度も議論しているが、シャトー・アンジェリュスは輝きを増し、細かなニュアンスが表現されたエレガントで一層緊張感のある、輪郭のはっきりしたワインに変化しており、バリック(小樽)を減らしてフードルを増やしたことに、われわれは大変満足している」

――少しデリケートな質問ですが、サンテミリオンの格付けから離脱した理由について教えてください。

「サンテミリオンの格付けは長い間、能力主義と競争心により質を向上させるシステムとして機能してきた。しかし、ある時から絶え間ない攻撃や憎悪の源になり、2006年の格付け、そして2012年の新しい格付け、さらに今年予定されている新しい格付けも非難攻撃が続いている。特にシャトー・アンジェリュス、私の父、私の家族、私自身が直接的に攻撃の対象になっており、今日、効果のある健全なシステムから逸脱し格付けはその意味がなくなったと感じている。父は大変多くの時間をサンテミリオン全体の発展の為に費やしてきた。そして、サンテミリオンが世界的な名声を得て、多くの人が恩恵を受けている。それに対して、今回下された判決は全く不当なものだ(注参照)。それで、私たちはその格付けに関わることから解放されたいと願うようになった。
われわれはこれまでサンテミリオン全体の発展の為に努力してきたが、これからは、少しエゴイステックに見えるかもしれないが、ワインの生産のみに集中し、偉大なワイン造りに専念することにした。われわれはもはや弁護士との打ち合わせに時間を費やすことはしない。人々は昇格したシャトーに嫉妬し、他を攻撃することを止めないからだ」

――最後に、現在のワイン市場についてどう見ていますか。また、コロナ禍、そしてウクライナ戦争はどんな影響を与えているのでしょうか。

「私はオプティミスト(楽観主義者)でもペシミスト(悲観主義者)でもない。私は常に現実を直視している、どちらかと言えばプラグマティスト(実用主義者)だ。確かにわれわれは地政学的に困難な状況に置かれており、大変複雑で難しい状況に直面している。したがって、大変慎重だ。ただ、2021年産プリムールの販売についていえば、大変少収穫で、既に多くの注文が入ってきている。現在のワイン市場は大変健全で、買い手側のネゴシアン(ワイン商)に十分な資金がある。昨年のネゴシアン向け出し値は1本210€、一般消費者の予約価格は252€(252€x135¥=3万4020円)程度だ。今後、経済状況を一変するような事態が生じない限り妥当な水準で取引されると思う」

※注:2012年の格付け見直しの際に格付け不認可となった3シャトー「クロック・ミショット」「コルバン・ミショット」「ラ・トゥール・デュ・パン・フィジャック」が、当時INAOの役員を務めていた「シャトー・アンジェリュス」のユベール・ド・ブアール氏と、「シャトー・トロット・ヴィエイユ」のフィリップ・カステジャ氏を、格付けに不当に介入し、影響力を行使したとして訴えた事件。フィリップ・カステジャ氏は関わりが薄かったとして無罪になったが、ユベール・ド・ブアール氏は自分がコンサルトンととして関わっていた7シャトーを昇格させ、オーナーであるアンジェリュスをプルミエ・グラン・クリュ・クラッセAに昇格させたとして、裁判で有罪判決を受け、6万€の支払いを命じられた。ブアール氏は問題に区切りを付けるため罰金支払いを受け入れる方法を選んだ

『シャトー・アンジェリュス(Château Angélus)』
栽培面積は27ha。品種はメルロ53%、カベルネ・フラン46%、プティ・ヴェルド1%。毎年メルロ主体のブレンドだが、2021年産は例外的にカベルネ・フラン60%、メルロ40%とカベルネ主体のブレンドとなっている。メルロはスタンレスタンク、カベルネ・フランはコンクリートタンクで醸造。熟成はバリックとフードルで約22カ月間

カリヨン・ダンジェリュス(Carillon d’Angélus)
栽培面積18haで三つのテロワールに分かれている。品種はメルロ90%、カベルネ・フラン5%、カベルネ・ソーヴィニヨン5%。逆円錐型ステンレスタンクで醸造。バリックで16カ月熟成(新樽60%)

No3 アンジェリュス(No3 d’Angélus)
カリヨン・ダンジェリュスの畑の7haの若い樹齢のブドウ樹を使用。100%ステンレスタンクで発酵。熟成は60%をバリック、40%をタンクで14~16カ月間

This article is a sponsored article by
''.