ソムリエと樋口真一郎氏(髭男爵)と学ぶ品種の勉強会。ワイン用ブドウ品種について、基礎知識から味わい方まで、とことん学ぶ連載です。本誌『ワイン王国 131号』にも詳しく掲載されているので、併せてご覧ください。デジタル版はこちらから。
★12月5日発売『ワイン王国 132号』の「品種のいろは」のテーマは「シャルドネ」!★
第4回の「ピノ・ノワール」に続く今回のテーマは「甲州」。樋口真一郎氏と「東京エディション虎ノ門」ヘッドソムリエの矢田部匡且氏と一緒に、さわやかな和柑橘の印象が和食にぴったりな品種、甲州の魅力に迫る。
甲州のいろは
甲州は、日本で千年以上の栽培の歴史を持つ伝統的白ブドウ品種。果皮は厚めでピンクがかったグレー。樹勢が強く、多湿な日本の気候でも病虫害の影響を受けにくい。近年では栽培、醸造の試行錯誤の結果、さまざまなスタイルのワインが生まれている。2010 年、日本の固有品種で初めてOIV(国際ブドウ・ワイン機構)に品種登録された。
主な香り
ユズやスダチ、カボス、ハッサクなどの柑橘類や和ナシやカキなどの和のフルーツ。
味わい
みずみずしくフレッシュで、果実の甘やかさと酸味のバランスに優れ、穏やか。後口にほろ苦さを感じるものも。
日本が誇る国際品種
食卓で真価を発揮
山梨県原産の甲州は、ヨーロッパ原産のブドウがシルクロードを経由し、中国から日本に流入したと推定されている。最初に栽培が始まったのは勝沼の地。国内生産量の約95パーセントを山梨県が占めている。
「甲州は僕が一番多く飲んでいるワインかもしれません。ワインバーなどで単体で飲んでいる時は正直、パンチが弱い印象だったのですが、家で豆腐鍋と合わせたときに、これは美味しい!と驚きました。日本の食卓で合わせると真価を発揮することを知り、それからはまりましたね」と樋口氏。
アフターにほろ苦さがあると言われるが、ほかにどんな特徴があるのだろうか。
「香りだと和柑橘以外に、柿や和梨などの日本のフルーツフレーバーがふっと上がってきます。味わいは、みずみずしくフレッシュで、果実の甘やかさと酸味のバランスが取れていて、とてもニュートラルな品種です」と教えてくれたのは矢田部氏。
さらに、出汁の旨味のニュアンスもあり、これが料理との相性を広げてくれるポイントだという。今回は6アイテムを試飲し、甲州の特徴を探ってみた。
これぞ! 甲州6選
品種の個性が表現された6アイテムを紹介。
造り手や産地による味わいの違いを知り、お気に入りの1本を見付けよう。
『酵母の泡 甲州 NV』(日本/山梨県)
繊細ではつらつとした泡立ち。青リンゴやメロン、スイカズラなどのフレッシュな香りが心地いい。上品なアロマとさやわかな酸が相まって口当たりは穏やかで、ブドウのみずみずしさを感じる。すっきりと辛口でライトなスタイルのスパークリングワイン。
『甲州 アイ・ヴァインズ ヴィンヤード 2021年』(日本/山梨県)
熟した和柑橘やグレープフルーツ、和梨の香りに続いて、アプリコットやリンゴのコンポート、カモミールの花の甘やかで落ち着いた香りが立ち上る。果実のまろやかさが表現された、旨味を伴った余韻が続く。穏やかで厚みのあるワイン。
『プレステージクラス オランジェ 2021年』(日本/山梨県)
カキやハッサク、ミカンなどの和のフルーツに、サフランやカモミール、クローヴや紅茶などのスキンコンタクト由来の複雑なアロマ。穏やかで丸みのある酸と果実味のバランスに優れ、中盤からはほろ苦さと旨味を感じる。豊かでやさしい味わい。
『グランポレール 山梨甲州〈樽発酵〉2020年』(日本/山梨県)
グレープフルーツなどの柑橘類の香りに、アプリコットやクリ、樽発酵由来のアーモンドなど、複雑性のある香りが重なる。味わいはドライで、しっかりした酸味と果実由来の甘やかさ、樽から来る香ばしさがワインの骨格を形成。心地いい余韻も魅力。
『安心院ワイン 諸矢 甲州 2021年』(日本/大分県)
スダチやカボスなどフレッシュな和柑橘のアロマに、白桃やアプリコット、ツゲの葉やセルフィーユも香りメリハリがある。口に含むと果実味と生き生きとした酸、土壌由来のミネラルを感じ、ほのかな苦味が全体をまとめる。クリーンでキレのあるワイン。
『サントリー フロムファーム 登美の丘 甲州 2020年』(日本/山梨県)
ハッサクやミカンなどの和柑橘に、パイナップルや洋ナシ、ヴァニラの甘やかなアロマ。ジャスミンやミントなどのフレッシュなハーブ香も。ふくよかな果実味に張りのある酸がボディを与え、飲み応えがありジューシー。旨味を伴った余韻が続く。
※価格などのデータはすべて2022年9月現在のものです
どんな素材も引き立てる懐の深さが魅力
6本のワインを試飲し、樋口氏は「あらためて甲州の多様さに驚くと同時に、前菜からデザートまで甲州オンリーでペアリングができると確信しました。造りも味わいも本当にさまざまなスタイルがあり、和食だけでなく、ステーキなどの肉料理や、デザートにも合わせられます」と振り返った。
矢田部氏もスタイルの多様さとペアリングの可能性に注目。
「同じ山梨でも生産者ごとに違いがありましたし、大分のものは全く個性の異なる甲州でしたね。甲州には素材によって味わいが変化し、素材の持ち味を引き出すような、そんな魅力があります。世界的に繊細な料理が主流の今、甲州は時代の流れに合っていると思います」と締めくくった。
本誌では、各アイテムの味わいやペアリングをより詳しく考察。ぜひ参考にしながら、食卓でこそ輝く甲州を楽しんでいただきたい。