ひぐち君(右)お笑いコンビ「髭男爵」のメンバー。2015 年ワインエキスパート取得(一社)日本ソムリエ協会名誉ソムリエ

今、日本で最も注目が集まるワイン産地「北海道余市町」は町をあげて「ワインで一点突破」の地方創生に取り組んでいる。そこで、「余市町ワイン大使」として活動しているお笑いコンビ「髭男爵」ひぐち君と日本ワインにも造詣が深い「東京エディション虎ノ門」ヘッドソムリエの矢田部匡且氏に、ワイン産地としての余市のポテンシャルについて語ってもらった。

画像: 矢田部匡且氏(左) 「東京エディション虎ノ門」ヘッドソムリエ。「パークハイアット東京」「ワイン蔵Tokyo」「ジャン・ ジョルジュ東京」に勤務後、「ピエール・ガニェール」シェフソムリエを経て現職 ひぐち君(右) お笑いコンビ「髭男爵」のメンバー。2015 年ワインエキスパート取得(一社)日本ソムリエ協会名誉ソムリエ

矢田部匡且氏(左)
「東京エディション虎ノ門」ヘッドソムリエ。「パークハイアット東京」「ワイン蔵Tokyo」「ジャン・
ジョルジュ東京」に勤務後、「ピエール・ガニェール」シェフソムリエを経て現職

ひぐち君(右)
お笑いコンビ「髭男爵」のメンバー。2015 年ワインエキスパート取得(一社)日本ソムリエ協会名誉ソムリエ

ひぐち 僕は2017年にワインイベントで余市町の「ドメーヌ タカヒコ」の曽我貴彦さんに会って、日本ワインに興味を持つようになったんです。ですから、余市町にはぜひ行きたいと思っていたところ、 21年秋に仕事で初めて訪問できました。そこから縁がつながり、22年5月に「余市町ワイン大使」に就任しました。

矢田部 私は19年に余市町の「ラフェト・デ・ヴィニュロン・ア・ヨイチ」に参加しました。とても人気のあるワインイベントで、予約の開始時間前からパソコンの前で待機してチケットを取りました(笑)。余市町は、この3年半でワイナリー数がずいぶん増えましたよね?

ひぐち 今、町内には16のワイナリーがあります。すべて巡らせてもらいましたが、個性あるワイナリーばかりでワクワクします。ワイン用のブドウ農家も50軒近くあり「ワインの町・余市」の歴史を作った“七人の侍”と呼ばれるレジェンド農家も現役です。昨年、1年を通してそのうちの一つ「木村農園」でワイン用ブドウ栽培の流れを体験させてもらいました。

矢田部 それはすごいですね!

ひぐち ほぼ毎月、余市町に通って芽かきから新梢の誘引、除葉、収穫、剪定、枝おろしと、栽培を実際に行いました。収穫は3日間、町役場のスタッフたちと参加したのですが、町内からだけでなく、東京などからボランティアで収穫を手伝う人々が余市町にたくさん来ていました。なかには収穫用の椅子を持参する常連の方もいてその熱量に驚きました。

画像: 2022年5月「余市町ワイン大使」に任命!右は齊藤啓輔町長

2022年5月「余市町ワイン大使」に任命!右は齊藤啓輔町長

画像: 毎月余市に赴き、畑仕事を手伝うひぐち君

毎月余市に赴き、畑仕事を手伝うひぐち君

余市のワインの特徴は「酸と旨味」
フィールドブレンドにも注目

矢田部 最近、ソムリエ仲間でワインを持ち寄って飲んだ時、フィールドブレンド(*1)のワインが多かったんです。単一の品種で醸造するよりもテロワールが表現できるとして注目されている手法です。北海道はフィールドブレンドを積極的に取り入れていますよね。

ひぐち フィールドブレンドを採用し日本の造り手に影響を与えたのが、空知エリアの岩見沢市にある「ナカザワヴィンヤード」です。余市・仁木エリアでも余市町の「モンガク谷ワイナリー」や仁木町の「ル・レーヴ・ワイナリー」など、フィールドブレンドのワインを手掛ける生産者は増えています。

矢田部 ボルドー地方などのアサンブラージュ(ブレンド)とは異なり、品種にフォーカスするのではなく、土地や造り手の個性を表現できる。フィールドブレンドは、余市ワインの魅力の一つだと思います。

ひぐち 複数品種の混醸なので合わせる料理の幅も広そうです。僕は、余市のワインの良さは酸味にあると思います。同じ北海道でも空知エリアのワインには「硬質な酸」を感じるのですが、余市のワインは「柔らかい酸」で、さらに旨味もあります。あと、不思議と白ワインにはリンゴのニュアンスを感じるんですよね。これは余市町が北海道一のリンゴの産地だからでしょうね。

矢田部 そうかもしれませんね。

ワイン資格を持つ「地域おこし協力隊」
さらなるブランド力のアップに期待

ひぐち 笑い話ですが、かつて余市町では、ウイスキーのようにワインを飲食店でボトルキープしようとする人がいたのだそうです。それほどワインに対して知識も経験もなかった。でも、この15年でワイナリーの数が急激に増えて、 21年からは国の「地域おこし協力隊」(*2)制度を利用し、英国の「ザ・コート・オブ・マスター・ソムリエ」認定の日本唯一のマスター・ソムリエや、「JSA」認定ソムリエ、ワインエキスパートが移住し、ワイン産業振興にかかわっています。量質ともに「ワインの町」となってきたことで、町民の意識も変わるのかもしれません。僕も余市町内で「大使!」と呼びかけられたりしています。(笑)

矢田部 「余市ブランド」の力は十分に感じます。品種の面からは、シャルドネやピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブランなどヨーロッパ系の品種に期待しています。北海道でのワイン用ブドウ栽培の黎明期には、ケルナーやバッカス、ツヴァイゲルトレーベなど冷涼気候に適した品種が育てやすかったでしょうが、今は栽培技術のレベルが上がっています。それに、ソムリエの目線から言うとヨーロッパ系品種のほうがお客さまにお勧めしやすく、販売のチャンスが多いと思います。

ひぐち 「余市町に行きたいけれど、どこに行けばいいかわからない」という声をよく聞きます。家族経営のワイナリーが多く、見学できるところはまだ少ないですからね。いつか余市ワイナリーツアーを企画してみたいなぁ。

矢田部 山梨県甲州市の「勝沼ぶどうの丘」のように地元のワインに触れられて、ワインの町の雰囲気を味わえる場所があればいいですね。余市町が若くて熱意ある人材を集めて、さらにエンターテインメント性とブランド力が高まっていくことを期待しています。

*1 同じ畑に植えた異なる品種のブドウを同時期に収穫し、一つの発酵容器の中で醸造(混醸)する方法
*2 都市から過疎地域などに住民票を異動し、地域おこしにかかわる「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る国の取り組み

text by Tomoko HOMMA(余市町地域おこし協力隊)
photographs by Hiromichi KATAOKA

余市町では、各産業で町おこしに携わる「地域おこし協力隊」を募集しています。詳細はこちらをご覧ください。
https://www.town.yoichi.hokkaido.jp/chousei/saiyou/kyouryokutai.html

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