ボルドー右岸のアペラシオン・ポムロールは、同じ右岸のアペラシオン・サンテミリオンに比べるとややマイナーで話題になることが少ない。これは、栽培面積がサンテミリオンの3500ヘクタールに比べ約800ヘクタールと狭い事、ポムロールの殆どが平坦なブドウ園で観光名所となるようなシャトーなどがない事、さらに格付け制度がなく、ヒエラルキーを巡る話題に欠けるなど、さまざまな背景が考えられる。しかし、メルロの絹のような格別な味わいは、鉄分を含むポムロールの粘土質土壌のみが生み出すもので、ボルドーの右岸の究極の味わいはポムロールにあるとする愛好家もいる。
このほど、パリでポムロールの2大シャトー『シャトー・ボールガール』と『シャトー・プティ・ヴィラージュ』を飲み比べる興味深い催しが行われた。用意されたのはダブルマグナム(『シャトー・プティ・ヴィラージュ 2010年』『シャトー・ボールガール 2008年』)、マグナム(『シャトー・プティ・ヴィラージュ1990年』『シャトー・ボールガール 1995年』)、ボトル(『シャトー・プティ・ヴィラージュ 2020年』『シャトー・ボールガール 2018年』)の計6本。料理は、秋の味覚、キノコ料理のアントレに続いてメイン料理に牛肩肉のフォワグラ包み煮込み、そしてチーズはサンネクテール、カンタルが用意された。
『プティ・ヴィラージュ』はボールガールに比べるとやや繊細で、特にダブルマグナムの『プティ・ヴィラージュ 2010年』は最初やや表現が足りず、膨らみある『ボールガール 2008年』と比べかなり差があるように感じた。しかし2回目のサービスでは印象が全く逆転し『プティ・ヴィラージュ』が厚み、深み、果実味をグーンと増し驚いた。
今回の試飲でもっと高く評価したのは『シャトー・プティ・ヴィラージュ』の1990年だ。1990年は、現在のカベルネ・フランを増やしたフレッシュなスタイルとは異なり、メルロ主体のクラシックなスタイルが残っている。
「シャトー・ボールガール」は、この地方の典型的な18世紀の優美な邸宅を持つもポムロールの名門シャトーとして高い評価を得ている。作付け面積17.5ヘクタール(メルロ70パーセント、カベルネ・フラン27パーセント、カベルネ・ソーヴィニヨン3パーセント)。1990年に従業員10万人を擁するフランス第二位の銀行BPCE が買収し、リフトを使ったグラヴィティ・フローシステムを取り入れ、22 個の最新のコンクリート製逆円錐形タンクを使って区画毎に醸造するなど、生産設備に多大な投資を行った。
その後、2014年に「シャトー・スミス・オ・ラフィット」のカティアール家とギャルリー・ラファイエット・グループが共同で取得した。経営権はギャルリー・ラファイエットの不動産部門を管理するオーギュスタン・ベロワ氏が握っている。
2014年に「シャトー・ボールガール」を取得し、シャトー経営に自信を持ったオーギュスタン・ベロワ氏が次に目を付けたのが、「シャトー・ボールガール」に隣接する「シャトー・プティ・ヴィラージュ」だ。当初は「シャトー・プティ・ヴィラージュ」を「シャトー・ボールガール」に併合する案もだされたが、「シャトー・プティ・ヴィラージュ」のテロワールと個性、伝統を生かし、二つのシャトーを経営することにした。「シャトー・プティ・ヴィラージュ」のブドウ園は、上空から見るとほぼ二等辺三角形の形をしている。作付け面積10.5ヘクタール。砂利と軽い砂質で出来た表土の下に、鉄分を含む粘土質土壌が横たわるポムロールの典型的なテロワールで、18世紀に最初のブドウ樹が植えられた。ボルドーのジネステ家の所有を経て、2020年にギャラリー・ラファイエット・グループのオーギュスタン・ブロワ氏が取得する以前は約30年間、アクサ・ミレジムが所有していた。
作付け品種割合はメルロ70パーセント、カベルネ・フラン22パーセント、カベルネ・ソーヴィニヨン8パーセント。セカンドワインの『ル・プティ≪プティ・ヴィラージュ≫』に多くのメルロを回しており、「シャトー・プティ・ヴィラージュ」はカベルネの割合が30~40パーセントと高い。発酵、マセラシオンはセメントタンクを使い20~25日。その後、バリック(新樽30~50パーセント)を使い15~18カ月熟成する。2006年からコンサルタントを務めるステファン・ドゥルナンクール氏に加え、2020年に新たにミッシェル・ロラン氏をコンサルタントに迎え、「シャトー・プティ・ヴィラージュ」をさらに洗練させるためのプロジェクトが始まっている。
例えば、土壌の生物学的活動を活性化し、水ストレスを緩和するために、オート麦、ライ麦、レッドクローバー、亜麻仁、穀類の混合物、マメ科植物などで地表を覆い土地の自然な特性を引き出す試みを始めた。また、樹齢の若いブドウ畑では馬による耕作を行っている。この方法は、ブドウの株の間の土壌の圧縮を抑え、根がより深く伸びることを可能にする。2018年にはHVE レベル3の認証を取得し、生物多様性、農薬戦略、肥料の管理などの分野での取り組みを整えた。さらに2020年から有機農業への本格的な転換を始めており、2023年に公的認証を得る計画だ。
「シャトー・ボールガール」とともに「シャトー・プティ・ヴィラージュ」を管理するヴァンサン・プリウ氏は「プティ・ヴィラージュをはその名の通り、特別な小さなブドウ園で、特にその均一性は素晴らしい。おそらくまだ全てのポテンシャルを発揮できていない。我々の野心はそのポテンシャルを最大限引き出しながら環境を保護することだ。シャトー・プティ・ヴィラージュはポムロールのアペラシオンの頂点に立つべきテロワールだと信じている」と語っている。
ポムロールの2大シャトーを所有するギャルリー・ラファイエット・グループは1894年にアルザス出身の二人の従弟がパリで設立した小売店、ギャルリー・ラファイエットが起源だ。現在、世界に290店舗を持ち、従業員11,000人、売り上げ約7000億円。創業以来100パーセントファミリー経営を続けており、現在、創設者の子孫の娘婿フィリップ・ウゼ氏とウゼ氏の二人の息子、二コラとギヨームが経営を担っている。オーギュスタン・ベロワ氏は不動産関連の元弁護士で、フィリップ・ウゼ氏の娘のローレーヌさんと結婚し、ギャラリー・ラファイエット・グループの経営陣に加わった。
試飲、昼食会はギャラルー・ラファイエット・グループ本社7階にあるヴィップルームで行われた。アペリティフとして、「シャトー・ボールガール」を共同所有する「シャトー・スミス・オ・ラフィット」の2020年産の白がサービスされた。