昨年、日本に初上陸した「セント マルガリート アン プロヴァンス」はフランスでは多くの人に知られる名門ワイナリーだ。このほど、最新ヴィンテージを携えてワインメーカー兼CEOのオリヴィエ・フェイヤール氏が来日。徹底した品質管理の下で造られるロゼワインの魅力を、料理との相性も交えて探った。
SAINTE MARGUERITE EN PROVENCE(セント マルガリート アン プロヴァンス)
フランス・プロヴァンス地方は言わずと知れたロゼワインの世界的な産地だ。プロヴァンスで生産されるワインの約90パーセントがロゼワインであり、フランス全体のAOC(*1)ロゼのおよそ40パーセントをプロヴァンス産が占める。ここ数年、フランスでのロゼワインの人気は高く、一人当たりの消費量は白ワインより多い。ロゼはフランス国内のワイン消費量の30パーセント以上を占め、赤ワインに次いで飲まれている。
*1 Appellation d'Origine Contrôlée(アペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ)の略。原産地統制名称。原産地、ブドウ品種、醸造法などについて、INAO(国立原産地呼称研究所)により厳しく管理・統制された、フランスの最高格付けのワイン
フランス南東部に位置するプロヴァンスは、東はイタリアに接し南に地中海を臨む。大部分は典型的な地中海性気候で、夏は暑く乾燥し、晩秋から冬にかけては雨が降る。冬から春にかけてはミストラルと呼ばれる強く冷たい風がローヌ渓谷から吹き下ろすため、ブドウの病害の心配はほとんどない。主要品種は白ブドウがロール(ヴェルメンティーノ)、ユニ・ブラン、クレレット、ブールブラン、グルナッシュ・ブラン。黒ブドウがシラー、グルナッシュ、サンソー、ティブーラン、ムールヴェードル、カリニャン、クーノーワーズだ。
プロヴァンス・ロゼの魅力は、テロワールと南仏品種がもたらす、ミネラリーでフレッシュな果実味と酸が感じられるドライな味わいにある。白と赤の良さを持ち併せているので、野菜、魚、肉、チーズなど素材や調理法を選ばないのも大きな魅力の一つだろう。料理を選ばないため気軽に楽しめる、オープンマインドなワインだ。
「セント マルガリート アン プロヴァンス」は、わずか18ドメーヌだけが持つクリュ・クラッセ・デ・コート・ド・プロヴァンス(*2)の格付けを1955年から保持するプロヴァンス屈指の名門。同ドメーヌがプロデュースする『セント マルガリート ファンタスティック ロゼ』はAOCコート・ド・プロヴァンスの中でも評価の高いラ・ロンドの最高の区画から収穫されたグルナッシュ、サンソー、ロールの3品種をブレンドして造られる辛口ロゼワインだ。プロヴァンスに咲く花をあしらった優美なボトルが、淡いピンクのロゼ色と相まってエレガントに佇む。
*2 ボルドーのメドック地区、グラーヴ地区、サンテミリオン地区と同様に、1955年、コート・ド・プロヴァンスでも生産者の格付けが行われた。当時23(現在は18)の生産者が農業省の省令により「クリュ・クラッセ」として格付けされた
ワインメーカーでありCEOを務めるオリヴィエ・フェイヤール氏は「両親が77年に、海に非常に近い『ラ・ロンド』の地に惚れ込んでワイナリーを創業して以来、われわれのワイン造りの基本は『自分たちが飲みたいワインを造ること』です。40年以上前からオーガニック栽培を実践し、目の届く範囲できちんと手入れをした自社畑のブドウだけでワインを造っています。ロゼワインの神髄であるフレッシュな果実味と酸のバランスを何より重視しており、そのための労力は惜しみません」と話す。
毎年8月のグルナッシュの収穫時は、酸を残しながらも糖度が高いブドウを得るためにナイトハーベストを行っているという。鮮度にも気を配り、区画の5カ所に設置した10機のプレス機で、収穫から5分以内に圧搾するという徹底ぶりだ。
もう一つのこだわりは野生酵母を用いることだ。野生酵母で発酵させることによりシャンパーニュのような複雑さが出て、味わいの表現力が高まるのだという。
年内に日本国内での発売を予定している最新ヴィンテージの『セント マルガリート ファンタスティック ロゼ 2023年』は、心地いい酸味と旨味を伴ったやさしい果実味に、非常に長い余韻も感じられる。フェイヤール家ではブイヤベースやトマトをたっぷり入れたラタトゥイユをはじめ、オリーヴオイルをかけた焼き魚やチキン、牛肉のグリルなど、さまざまな素材や料理と日々楽しんでいるそうだ。
フェイヤール氏の両親がドメーヌを創業した1977年に所有していた畑はわずか7ヘクタールだったが、今や約200ヘクタールへと拡大し、2世代目のフェイヤール氏をはじめとする4人の子どもたちが受け継いでいる。ロゼのほか、日本未輸入のシラーとグルナッシュをブレンドした赤と、ロールの白も造っている。
〈現行ヴィンテージ〉
セント マルガリート ファンタスティック ロゼ 2022年
Sainte Marguerite Fantastique Rosé
白桃と洋ナシの豊かなアロマと、ライチ、パッションフルーツ、グレープフルーツの皮のエキゾチックなニュアンス。柑橘類や白い花を思わせる印象で、力強くフレッシュな味わい。オーガニック認証とヴィーガン認証の両方を取得。
参考サイト
「幸せなことに、われわれが造るワインは毎年ほぼフランス国内だけで完売してきました。もっと造ってほしいと言われますが、品質を維持するために大量生産はできません。一方、このクオリティーを世界で共有できることをとてもうれしく思っています」と、フェイヤール氏は日本でのリリースに意欲をのぞかせる。
ロゼワインは日本の桜によく似合う。この季節、なんだか無性にロゼワインが気になってしまう。何より和食に合う懐の深さがある。来日を振り返って、フェイヤール氏は「テロワールをリスペクトする私たちのワイン造りと、素材やその出自を大切にする日本料理には相通じるものを感じます。寿司はもちろん、昨日食べた辛子醤油でいただく中トロのペアリングは最高。中トロの甘さとスパイシーな辛子の風味がロゼと絶妙にマッチして感動しました」とうれしそうに話した。
エビの天ぷらとのペアリングも面白そうだ。桜の下で昼間から気取らず楽しむのもいいだろう。なかなか美味しいロゼに出合えないと感じている人にぜひ飲んで欲しい辛口ロゼだ。
『セント マルガリート ファンタスティック ロゼ』と「うずらのファルシーとラタトゥイユ うずらの卵に見立てたクリームとメスクラン」
フェイヤール氏の来日に合わせ、プロヴァンス料理店「クーカーニョ」でペアリングディナーが開催された。料理はうずらの肉をロール状にし、もち米や茸のデュクセル(*3)を合わせてファルシー(*4)にし、香ばしく焼き上げた。南フランス定番のラタトゥイユを下に敷いた1品。野菜の青やサワークリームの酸味に、ワインの持つハーブ感とフレッシュな酸が調和する。ボディが厚めのロゼのため、うずら肉にも味わいの重心が合う。まさにフードフレンドリーな1本。
*3 細かく刻んだキノコをタマネギなどと一緒にバターでじっくり炒めてペーストにしたもの
*4 野菜をくり抜いて器にし、その中に具材を詰めた料理
取材協力:タワーズレストラン「クーカーニョ」
「セルリアンタワー 東急ホテル」メインダイニング。最上階40階から大都会を一望しながら、旬の素材を使い、伝統の技術と斬新なアイディアを融合させたプロヴァンス料理が楽しめる。
東京都渋谷区桜丘町26-1
営業時間:ランチ11:30-LO14:00、ディナー17:00-LO20:00
TEL. 03-3476-3404
問い合わせ先:ペルノ・リカール・ジャパン㈱ TEL. 03-5802-2756
text by Uta KOBAYASHI
photographs by Kentaro TAKIOKA