シャンパーニュ「デュヴァル・ルロワ」はこのほどパリでプレステージュ・キュヴェ『ファンム・ド・シャンパーニュ(Femme de Champagne)』の世界キャンペーン、「ファンム・ド・シャンパーニュ・エクスペリアンス・ワールド・ツアー」開始を記念してファンム・ド・シャンパーニュの代表的なキュヴェ5本と料理のマリアージュを楽しむ昼食会を開催した。
会場として選ばれたレストラン「トロント・トロワ」は、パリ8区アルマ橋に近い高級ホテル「メゾン・ヴィルロワ」内にあるシックな星付き料理店。1908年に建てられた歴史的な邸宅を改装して2019年末にオープンし、コロナ禍を経て2021年に本格的な営業を開始した。シェフのセバスチャン・サンジュー氏の才能が評価され、開業からわずか6週間で星を獲得。歴史的な雰囲気とモダンな料理が融合する特別な空間でデュヴァル・ルロワのシャンパーニュを味わうのに相応しい場所だった。
用意されたボトルは『Femme de Champagne Grand Cru Brut NV』『Femme de Champagne Grand Cru 1996』『Femme de Champagne Grand Cru 2008』『Femme de Champagne Grand Cru Brut Nature2002』『Femme de Champagne Rosé de Saignée 2008』。デュヴァル・ルロワから参加したのはキャロル・デュヴァル・ルロワ夫人、長男で社長を継承したばかりのジュリアン・デュヴァル・ルロワ氏、1991年にキャロル・デュヴァル・ルロワ夫人に請われてデュヴァル・ルロワ社に入り、二人三脚でデュヴァル・ルロワ社の名声を確立してきたシェフ・ド・カーヴのサンドリーヌ・ロジェット・ジャルダンさんら。
デュヴァル・ルロワの歴史は1859年に遡る。ブドウ栽培家アンリ・コンスタン・デュヴァルとワイン商アルマン・エドゥアール・ルロワの出会いから始まったこのメゾンは、シャルドネの名産地として知られるコート・デ・ブランのヴェルチュに根を下ろした。創業以来、品質にこだわり、19世紀末には既に国際的な評価を得た。
戦後、着実に成長を続けたデュヴァル・ルロワに大きな転換点が訪れたのは1991年。この年、キャロル・デュヴァル・ルロワの夫でデュヴァル・ルロワの5代目、ジャン・シャルル・デュヴァル・ルロワ氏がガンのため39歳で急逝、代わりにキャロル・デュヴァル・ルロワ夫人がメゾンの指揮を執ることになったのだ。ジャン・シャルル・デュヴァル・ルロワ氏は病に伏し、余命いくばくもないことを悟ったある日、全従業員を集め、将来3人の子供がメゾンを引き継ぐまでキャロル・デュヴァル・ルロワ夫人がメゾンの指揮を執る、これに納得できない人はデュヴァル・ルロワ社を去るように告げたという。キャロル・デュヴァル・ルロワ夫人はベルギーのブリュッセルの出身。1980年にロータリークラブで出会ったジャン・シャルル・デュヴァル・ルロワ氏と結婚してシャンパーニュに嫁ぎ、8歳のジュリアンを頭に、シャルル6歳、ルイ4歳、3人息子の子育てに専念していた36歳の時だった。
「国際結婚で別の国から嫁いできた私が、男中心の伝統的なシャンパーニュのメゾンを引き継ぐことなど夢にもおもっていませんでした」とキャロル・デュヴァル・ルロワ夫人は当時を振り返る。
キャロル・デュヴァル・ルロワ夫人は夫のジャン・シャルル・デュヴァル・ルロワ氏が1989年、死の直前に多大な投資をして建設した醸造、生産設備を稼働させ、1990年代のシャンパーニュ危機を乗り越え、生産、販売を軌道に乗せることに成功した。粘り強く、勇敢で、野心的で、自立心が強く、鬣を誇るライオンに例えられることもあった。
デュヴァル・ルロワの名声はファンム・ド・シャンパーニュ(Femme de Champagne)の成功とともにあると言っても過言ではない。例外的に素晴らしかった1990年産のシャルドネを基にジャン・シャルル・デュヴァル・ルロワ氏が構想した高級キュヴェで、後にキャロル・デュヴァル・ルロワ夫人が名称を決め、発売したのは1999年のこと。
美しい個性的なボトルデザインにこだわり、フランスの高級意匠ボトル専門メーカー「サヴァーグラス」に依頼し、女性の持つ安定した重量感とエレガントさを併せ持つユニークなボトルを開発した。縦長の従来のボトルとは異なり、ピュピトルを使った動瓶作業(ルミアージュ)には適していないが、独特のフォルムは今やデュヴァル・ルロワのイコンとして高い評価を得ている。
進取の気風を持つキャロル・デュヴァル・ルロワ夫人は、社長就任早々、当時としては新しい役職として品質管理責任者のポストを社内に設け、ウノローグの学位を取得したばかりの23歳のサンドリーヌ・ロジェット・ジャルダンさんを雇い、品質第一の戦略を明確に掲げた。これが、2005年にシャンパーニュで最初に品質管理認証ISO9002を得る成果に結びついた。また、環境保全と永続可能なブドウ栽培の哲学を掲げ、シャンパーニュのメゾンとして最初にオーガニック認証を受けたシャンパーニュ・ブリュットを発売したのもキャロル・デュヴァル・ルロワ夫人の功績だ。
名の知れた大手メゾンの多くのは原料ブドウのほとんどを中小の栽培家や協同組合から購入している。これに対して、デュヴァル・ルロワは合計約600ヘクタール分の原料のうち約200ヘクタール分を自社畑から調達している。"自給率"は他のメゾンと比べて突出して高い。しかも、拠点を置くヴェルチュス村とその周辺のメニル・シュル・オジェ、オジェ、アヴィーズ、クラマン、シュイ、など、主としてコート・デ・ブランのプルミエクリュ、グラン・クリュの高品質なシャルドネを使っていて、これが、デュヴァル・ルロワのキュヴェに独特の繊細さ、軽やかさ、優雅さを与えている。
食事会の冒頭挨拶に立ったキャロル・デュヴァル・ルロワ夫人は「私は今引退し、代わって長男のジュリアンがデュヴァル・ルロワ社の社長を務め、職務をこなしている。そして、次男のシャルルが輸出と国内販売を、3男のルイが広報全般を担当している。今日紹介する『ファンム・ド・シャンパーニュ』はデュヴァル・ルロワの特別なキュヴェで、1991年以来、全身全霊魂を傾けて作り上げてきた。幼い子供達を残して夫が去った時、デュヴァル・ルロワ社は極めて困難な存亡の危機にあった。しかし、その後成長を遂げ、今や最も重要な100パーセント独立したメゾンの一つになった。われわれはグループに属さず、銀行の管理下にならず、独立した家族経営を続けている。そのことを非常に誇りに思っている。我々はボトルの販売数、原料ブドウの調達量を追いかけることはせず、常に品質にこだわってきた。これからも品質を維持し、もし贅沢品と言うならばそれを作り続けたいと思う。しかし、私にとつて、シャンパーニュは贅沢品ではない。楽しむものだと考えている」と、一部のシャンパーニュが、資本力を背景にしたブランド戦略で、過度なブランド贅沢品になっている事に対してやんわりと不快感を滲ませた。
また、好調だったシャンパーニュの販売状況にやや陰りが出ていることについて、キャロル・デュヴァル・ルロワ夫人は「シャンパーニュの出荷量はフランス国内、輸出ともピーク時と比べてかなり減少している。これは、メゾン(ネゴシアン)、個人栽培家(レコルタン・マニュピュラン)、協同組合(コーペラティブ)、すべてに共通しており、昨年に比べ平均15パーセント程度減少している」と語った。
続いて、2024年産についてジュリアン・デュヴァル・ルロワ社長が次の様に説明した。
「6月半ば現在、畑では開花が始まっている。おおよそ3カ月後に始まる収穫は例年より少し遅くなるだろう。春先から雨が異常に多く降り、湿度が高いことから葉の一部にうどん粉病が発生している。これがブドウの房に転移して広がらないことを願っている。病気を予防すべく、今年は、5月にすべての従業員総出でブドウ畑の手入れをした。他の栽培家とは異なるこうした努力が功を奏して、病気による収穫量の減少を救うことができると期待している。しかし、開花期の気温が低めで、受粉は完璧ではない。また、コード・デ・ブランの一部で春霜の被害もあった。だから、収穫量は例年より少し少なくなるだろう」
アペリティフとして『ファンム・ド・シャンパーニュ、グラン・クリュNV』を楽しんだ後、料理と合わせて最初に供されたのは、『ファンム・ド・シャンパーニュ、グラン・クリュ1996年』。79%のシャルドネと21%のピノ・ノワールのブレンド。
シャルドネはシュイ、メニル・シュル・オジェ、アヴィーズ、クラマンなどグラン・クリュのみ。ドザージュ4.5g。全体の7%弱が樽発酵。口に含むと、この年の特徴である素晴らしい酸がもたらす驚くほどの新鮮さと力強さが感じられる。
続いてサービスされた『ファンム・ド・シャンパーニュ、グラン・クリュ2008年』は74%のシャルドネと26%のピノ・ノワールのブレンド。
コート・デ・ブランのグラン・クリュに加えて、アイ、ブジー、ヴェルズネのピノ・ノワールを使っている。1996年と比べるとよりエレガントで繊細な印象を受ける。シェフ・ド・カーヴのサンドリーヌ・ロジェット・ジャルダンさんは「2008年は1996年と2002年の中間的な特徴を持つヴィンテージ」と解説する。
今回特に印象に残ったキュヴェが『ファンム・ド・シャンパーニュ、グラン・クリュ・ブリュット・ナチュール2002年』だ。コート・デ・ブランのグラン・クリュから収穫されたシャルドネ95%にモンターニュ・ド・ランスのグラン・クリュ、アンボネで収穫された5%のピノ・ノワールをブレンドしている。
全体の20%が樽醸造。ドザージュゼロの超辛口だが、2002年は例外的に熟度の高いブドウが収穫された年で、グラスから立ち上るトーストのニュアンスに包まれた豊かな香りと口中に広がる凝縮感、そして、ピュアで直線的な味わいは他のファンム・ド・シャンパーニュと一線を画す特別名もの。
後に、デザートと共に『ロゼ・ド・セニエ グラン・クリュ2008年』を楽しんだ。ブジーのピノ・ノワールを100%使用したセニエ方式のロゼシャンパーニュ。ドザージュ3g。2008年は、春に霜が降り、開花が難しいなど天候に恵まれない年だったが、夏は気温が上がり、ブドウは十分に熟成した。この例外的な質に注目して、15年という長い歳月をかけて熟成させ2024年6月にリリースした。
最近、シャンパーニュのロゼは薄いサーモン色が流行になっているがデュヴァル・ルロワのロゼは伝統的な深いピンクで、きめ細かい泡に包まれ、力強いはっきりした赤い果実の風味広がる。生き生きとした力と長い余韻が本当に心地よい。偉大なロゼだ。
試飲会を通じて印象的だったのは、各ヴィンテージの個性の違いだ。年によって全く異なる表情を見せるシャンパーニュだが、それでいて、デュヴァル・ルロワとしての一貫した品質の高さと個性が感じられる。これこそが、長年の経験と技術の賜物だろう。