“甲州ワインを世界へ”をコンセプトに、2010年から世界のワインマーケットの中心地イギリスを主にプロモーション活動を行ってきた「山梨ワイン輸出プロジェクト(KOJ)」。このたび、英国のワイン専門誌『Decanter(デキャンタ)』の記者を山梨に招聘。同誌が日本の産地を初取材、9カ所のワイナリーを訪問することに。7月17日には、「サントリー登美の丘ワイナリー」を取材する様子が報道陣に公開された。
text by Atsushi TOGAMI
photographs by Koumei KADOWAKI

「サントリー登美の丘ワイナリー」チーフワインメーカー篠田健太郎氏と、「デキャンタ」編集者シルヴィア・ウーさん
山梨県内のワイナリー15社と関係団体によって2009年に設立されたのが、「山梨ワイン海外輸出プロジェクト(Koshu ofJapan)」(以下KOJ)。“甲州ワインを世界へ”を掲げ、日本を代表する品種「甲州」の品質と世界市場での認知の向上を目的としている。
2010年より山梨県などのバックアップを受けながら、世界のワインマーケットの中心地であるイギリスを主として、世界各国でのプロモーション活動を展開。令和7年度は、さらなる高みを目指す第2ステージへの移行期と位置付けて、“異次元”のプロモーションを実施している。
その成果として、世界90カ国、約90万人の読者数を誇るイギリスのワイン専門誌『デキャンタ』の取材誘致に成功。デキャンタにとっては今回が初めての日本産地取材。7月17日にその様子が、報道関係者に公開される運びとなった。
舞台は、同誌のコンクール「Decanter World Wine Awards2024」で日本ワインとして初めて、プラチナ賞とトップ50銘柄に入る「BEST IN SHOW」に輝いた「サントリー登美の丘ワイナリー」である。
当日午前10時に集合し、先ずは標高600メートルの一番高い畑に設けられた眺望台へ。シルヴィア・ウーさんは、デキャンタで数多くの記事を執筆、アジアのワインを熟知した編集者。対応するのは、「サントリー登美の丘ワイナリー」の篠田健太郎チーフワインメーカーだ。

「袋掛けは、日本にしかないんです」と、スマートフォンで撮影
生憎と小雨が降るコンディション。晴れていれば富士山が望めるのだが「お姿拝見したかったのに、残念」とシルヴィアさんは苦笑い。
「この広大な畑は盆地の南向きの斜面にあるため日照量が多いんですよ」と、篠田氏の畑の説明から取材がスタートした。
「これを観たかったんです!」。シルヴィアさんの視線の先にはひと房ごとに袋掛けされたブドウの姿が。
「こんな細やかな作業をするのは日本ぐらい。海外でも有名な景色として紹介されていて、実際に目にすることができて興奮しました」
さらに「こちらは貴腐ワイン用のブドウなので、単に水を弾くだけでなく、(熟すように)光を通す素材を用いているんです」(篠田氏)の補足に、「なるほど」とさらに感心を深めた表情を浮かべた。

「甲州は樹勢が強く、病気にも強いんです」
やがて棚仕立ての畑に足を踏み入れた二人。高品質の甲州を育てており、そのブドウはデキャンタ主催のコンクールで入賞した『SUNTORY FROM FARM 登美 甲州 2022年』 にも用いられている。“一文字短梢”という独特のスタイルの効用などを熱心にヒアリングする姿が印象的だ。

メルロの前で温暖化に対処するために、山梨大学と共同で開発し導入した「副梢栽培」のレクチャー。熟期を遅らせるために新芽の先端を切除するという大胆な手法に興味津々

現在販売中の甲州2種を含む6アイテムを試飲

「メロンのような甘みもありますね」と独特な表現も
畑からミーティングルームに戻ってテイスティング。甲州については
「ストラクチャーがしっかりしていますが、フレッシュですよね。この2つを両立させるのは難しいと思うのですが、本日お聞きした日本ならではの繊細な作業や大胆な試みがこの味わいを創出していることを実感しました」
さらに
「甲州のワインは一言で表すとすれば、“エレガント”ですね」と微笑んだ。

KOJの三澤茂計(みさわ・しげかず)実行委員長と
最後はKOJの実行委員長の三澤茂計氏とのツーショット撮影。
報道陣から「これから日本ワインはより世界に広まっていけると思いますか?」の問いかけが。
「価格的な面で、ヨーロッパはもちろんチリなどとも競合するので、厳しい状況であることは否定できません」と外交辞令抜きの冷静な回答。
「でも甲州のような低アルコールタイプのワインは、世界的な健康志向のトレンドにマッチしています。あとやはり“日本”というブランドは強い。ウイスキー、料理、日本酒……。ワインもきっとその一つに加わっていくことでしょう」とポジティブに締め括った。
「活動当初は、海外から取材を受けるなんて想像できませんでした。とても感慨深いですね」と目を細めた三澤実行委員長。次のステージとしてシンガポールを中心にアジアへの展開を想定しているKOJ。世界的に強い影響力をもつメディアに取り上げられた実績は、その後押しとなるのは間違いない。