アルザス地方、エギスハイム村の中心にある「ジョゼフ・グリュス・エ・フィス」を訪ねた。栽培・醸造を行うドメーヌとしての礎を築いたのは、現経営者アンドレ・グリュス氏の曽祖父が購入した土地を使って、1947 年にワインの生産と瓶詰めを始めた祖父のジョゼフ氏だ。97 年に4 代目としてドメーヌを引き継いだアンドレ氏は、エギスハイムやルファックなどの村に広がる約18 ヘクタールの畑を管理している。畑は主に石灰岩質の多様な土壌で構成され、3 世代にわたり厳格な手摘みを実践。テロワールの個性を最大限に引き出し、ワインに凝縮感と複雑なニュアンスを与えている。

「私の収穫は今年で28回目になります」と語るアンドレ氏。地球温暖化により、近年完璧に熟すようになったピノ・ノワールの生産量が、12 %を占めるまでに成長。将来的には15 〜18 %を目指している
ドメーヌを語る上で欠かせないのが、生産量の約4 分の1 を占めるクレマン・ダルザスだ。その品質は市場で高く評価されており、近年アンドレ氏のもとで目覚ましい進化を遂げている。フレッシュでミネラル豊かな『エクストラ・ブリュット』、より複雑な『グラン・キュヴェ』。そして特に注目すべき『キュヴェ・コンフィダンシエル』はシャルドネにほんの少しピノ・ブランを加え、澱(おり)とともに42 カ月間熟成、*1リザーヴワインのために*2ソレラシステムを導入するなど、その革新的
な試みは、ドメーヌの品質への強いこだわりと、クレマンの可能性を追求する野心を示している。ピノ・ノワール100パーセントで造られる『ロゼ』は、*3ドサージュが1リットル当たり5グラム。果実味と酸味のバランスが取れた辛口に仕上げられている。

最近、5000 Lのブルゴーニュ産フードルを導入し、さらなる品質向上に意欲を燃やしている
アンドレ氏が掲げる哲学は、ブルゴーニュでの修業経験を生かした「バランス、純粋さ、エレガンス」だ。伝統的なフードル(大樽)での醸造を守りつつ、最新設備を導入して品質向上と効率化を両立。気候変動への対応として、ピノ・ノワールの栽培比率を高める計画を進めるほか、将来的にはワイナリーを拡張し、*4グラヴィティフローによる一層丁寧な醸造を目指している。アンドレ氏の熱心な説明と、近代的な設備を使ったピュアな製品群から、アルザスの未来を垣間見ることができた。

18haに加えてクレマン専用に2ha分のブドウを買い付けている。ピノ・グリ『カス・ノワゼット(くるみ割り)』は樽発酵、マロラクティック発酵、バトナージュといったブルゴーニュの伝統的な手法で醸造する。かつてはAOCの規格外だったため「ヴァン・ド・フランス」として販売されていた
*1 貯蔵してある良作年の原酒
*2 熟成のシステムで、下段の樽から一部のワインを抜き出して瓶詰めし、減った分のワインを上段の樽から移して補う。若いワインが古いワインに混ざるため、各特徴が合わさり、熟成感も出る
*3 デゴルジュマン(瓶内2次発酵の時に生じたオリを除く作業)後、目減りした分を補うために蔗糖を溶かしたリキュールを添加する作業。リキュールの分量により、甘辛度が決まる
*4 ポンプを使わず、重力によってブドウ果汁やワインを移動させ醸造する
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