「クリュ・ブルジョワ・メドック」は2020年に大幅な改革が行われ、5年ごとの見直し規定が盛り込まれた。この新しい格付けの2025年版が今春発表された。今回の新格付けで選ばれたシャトー数は前回の249から170へと大幅に絞り込まれ、より厳格な審査基準が適用された。また、2025年の格付けで、最上位の「クリュ・ブルジョワ・エクセプショネル」は、前回同様14シャトーとなったが、内訳は大きく変動。前回の格付けを維持しているのはわずか6シャトーで、残る8シャトーは入れ替わり、新規に選ばれた。5年ごとの見直し規定が実効性を持って機能していることを示す結果といえるだろう。

世界最優秀ソムリエのフィリップ・フォールブラック氏とアリアンス・デ・クリュ・ブルジョワ会長のアルメル・クルューズさん
こうした中で、10月13日「クリュ・ブルジョワ・エクセプショネル」全14シャトーが合同で、ジャーナリストを対象とした試飲会をパリで開催した。会場は2025年の格付け審査委員長を務めた世界最優秀ソムリエ、フィリップ・フォールブラック氏が経営するレストラン「ビストロ・ド・ソムリエ」。試飲対象は2023年産で、試飲会後の昼食会では各シャトーが持ち寄った古いミレジムのマグナムボトルの比較試飲も行われた。23年産は総じて、新鮮でよく熟した果実味が特徴的で、古いミレジムと比べると飲みやすいスタイルへと変化し、明らかな質の向上が確認できた。
以下、試飲した14のクリュ・ブルジョワ・エクセプショネルの23年産に対する評価をまとめた。
シャトー・ダルサック(AOC Margaux)15/20

ロイック・ル・ボゼック氏―シャトー・ダルサック、ディレクター
マルゴーで注目の再建シャトー。1986年にフィリップ・ラウ氏が取得した時、ブドウ園は著しく荒廃していたが、1995年にINAOがテロワールを再評価し、ブドウ畑の半分をマルゴーAOCに格上げ。現在108ha(マルゴー54ha、オー・メドック32ha、メドック白4ha)を所有。カベルネ・ソーヴィニヨンとメルローに集中し、純粋な品種表現を追求。ワインと芸術の融合をコンセプトに、シャトーで現代アート展示も実施。2020年にエクセプショネルに昇格、2025年も維持。クラシックなスタイルでスパイスとローストコーヒーのアロマ、力強いタンニン、長い余韻を持つマルゴーの個性が良く表現されている。
シャトー・カステラ(AOC Médoc)15.5/20

ジャン・ピエール・ダルミュゼイ氏―シャトー・カステラ支配人
メドック最古のシャトーのひとつで14世紀に遡る歴史を持つ。中世には要塞として機能し、かつてはモンテーニュの兄が所有、モンテーニュとラ・ボエティが執筆のため滞在した文学的聖地だ。63haの畑は独特の二層構造のテロワール。シャトー周辺の粘土石灰質土壌にメルロー、10haの砂利土壌にカベルネ・ソーヴィニヨンを栽培。1932年からクリュ・ブルジョワ。2025年エクセプショネルに昇格。現オーナーのトマス・C・プレス氏と醸造家フィリップ・グリンフェルト氏が伝統的醸造法でテロワールの個性を引き出し、国際的評価を確立している。
シャトー・ラ・カルドンヌ(AOC Médoc)15/20

アンドリュー・マッキネス氏―シャトー・ラ・カルドンヌ支配人
メドックで最も標高の高い場所に位置する歴史的シャトー。3世紀以上この地を支配し、18世紀の地図にも記載されている。1990年代にドメーヌ・バロン・ド・ロートシルト(ラフィット)傘下で大改革を実施。現在は家族経営のドメーヌCGRが所有し、リュット・レゾネで環境配慮栽培を実践。ブドウ畑、約75ha。メルロー50%、カベルネ・ソーヴィニヨン45%、カベルネ・フラン5%。標高の高さゆえ、大西洋とジロンド川の影響で独特のミクロクリマを有している。由緒ある地下セラー「カテドラル」で熟成。エレガントで黒果実の風味と繊細な樽香が調和している。メドックの伝統と革新が融合した質。
シャトー・ル・クロック(AOC Saint-Estèphe)16/20

サラ・ルコント・キュヴリエさん-シャトー・ル・クロック支配人
19世紀初頭にメルマン家が建設した美しい建物は地域登録遺産。1903年にキュヴリエ家が取得、現在サラ・ルコント・キュヴリエ氏が率いる家族経営。1932年クリュ・ブルジョワ・シュペリウール、2020年にエクセプショネル昇格、2025年も維持。砂利質土壌主体の畑からサン・テステフらしい力強さとエレガンス兼備のワインを生み出す。カベルネ・ソーヴィニヨン主体でメルロー、カベルネ・フランを補完的にブレンド。黒果実の凝縮感と洗練されたタンニン。構造のしっかりした長期熟成タイプのワイン。
シャトー・ラフィット・カルカセ(AOC Saint-Estèphe)15.5/20

ピエール・モシール氏―シャトー・ラフィット・カルカセ支配人
サン・テステフ最古シャトーのひとつでブドウ栽培は1759年から続いている。1781年にルイ16世の法廷弁護士ジャン・ラフィットが地所を取得しカルカセと命名。18世紀シャルトルーズ様式の美しい建築。2016年ピエール・ルソーが取得後、3年で醸造施設、セラー、邸宅を大改修。砂利質台地に広がる35haの畑にカベルネ・ソーヴィニヨン60%、メルロー35%、カベルネ・フラン5%の割合で植えられている。伝統的醸造法に最新技術を融合、12カ月樽熟成。力強く、エレガントで複雑、赤果実やスミレ香があるサン・テステフの典型スタイル。1932年からクリュ・ブルジョワ。2025年エクセプショネル昇格。
シャトー・ロジャック(AOC Médoc)16.5/20

ルネ・フィリップ・デュボスク氏―シャトー・ロジャック支配人
ベガダン村の歴史的なシャトーで2025年エクセプショネルを獲得した新星。1957年ベルナール・クリューズが引継いだ時は8haだったが、現在は75haに拡大。メドック北部の典型的なテロワールで砂利質と粘土質土壌が混在。カベルネ・ソーヴィニヨンとメルロー中心の伝統的アッサンブラージュで構造のしっかりした力強いワインを産出している。黒果実の凝縮感と優雅なタンニンが特徴。放牧しているリムザン牛400頭と馬の糞を肥料として使用。各区画の個性を活かした丁寧な醸造、12カ月樽熟成。近年の品質向上目覚ましく国際的な評価が高い。
シャトー・マレスカス(AOC Haut-Médoc)17/20

オレリヤン・ミュラール氏―シャトー・マレスカス販売担当ディレクター
マルゴーとサン・ジュリアンの間、ラマルク村を見下ろす絶好の立地。2012年からステファン・ドゥルノンクールの助言を得て大改革を実施、数年でエクセプショネルの評価を得た。40haの畑はオー・メドックを代表する砂利質土壌。メルロー45%、カベルネ・ソーヴィニヨン45%、プティ・ヴェルド10%。平均樹齢30年、古木は90年近い。2020年ヴィンテージはデキャンター誌97点高評価。重力を利用し、コンクリートタンクで醸造。樽熟成で深みとエレガンスが感じられる高品質のメドックワイン。
シャトー・ド・マルレ(AOC Haut-Médoc)15/20

ポール・ボルデス氏 - シャトー・ド・マルレ - 経営者
オー・メドック入口に位置する。2020年にエクセプショネル昇格し2025年も維持し続けている実力派。歴史と伝統重視しながら現代設備に対する投資を惜しまず品質向上に邁進している。アペラシオン・オー・メドックとマルゴーに広大な敷地があり、その中に多様なミクロクリマの複数の区画を持っている。主に砂利質土壌で水はけが良く、カベルネ・ソーヴィニヨンの成熟に理想的な環境。環境認証HVE3を取得し、持続可能農業を実践。コンクリートタンクで醸造後、樽で12カ月熟成。力強さとエレガンスを兼備した熟成ポテンシャルの高いワイン。クラシックなメドックスタイルを守りつつ、現代嗜好対応の洗練した味わいが国際市場で高評価を得ている。現在では馬場馬術馬の飼育でも知られている。
シャトー・モングラヴェ(AOC Margaux)17/20

カラン・ベルナローさん―シャトー・モングラヴェ支配人
ベルナロー家所有の新星。1980年レジス・ベルナロー氏が父親から1haを相続、その後アルサック村の畑を取得し1981年にドメーヌを創設。現在12ha。レジス、ジェローム、カリンの2世代目が情熱を傾けている。マルゴーのモザイク状のテロワールはガロンヌ川由来第四紀砂利質土壌。作付け割合はカベルネ・ソーヴィニヨン60%、メルロー38%、カベルネ・フラン2%。2003年クリュ・ブルジョワ、2020年クリュ・ブルジョワ・シュペリウールに昇格、そして2025年にエクセプショネルを獲得。複雑で豊か、エレガントなスタイルが、短期間で高く評価されるようになったのは家族の献身とテロワールの深い理解による。
シャトー・パルーメイ(AOC Haut-Médoc)15/20

ピエール・カズヌーヴ氏―シャトー・パルーメイ支配人
ボルドー市街から数km、リュドン・メドックに位置する。大戦後一時放棄されたが1989年にカズヌーヴ家が取得し完全に再建した。現在息子のピエール・カズヌーヴが経営。37haの畑はオー・メドック、ムーリス・アン・メドック、マルゴーの3アペラシオンに跨り各テロワールの個性を活かす醸造を行っている。有機農業認証取得。カベルネ・ソーヴィニヨン54%、メルロー43%、カベルネ・フラン3%。ガロンヌ川由来砂利質土壌が果実の心地よい表現を生み出す。2025年にエクセプショネル昇格。エレガントで軽く、純粋な果実味が特徴。革新的ワインツーリズムで2024年に、専門誌「テール・ド・ヴァン」から表彰されている。
シャトー・パヴェイユ・ド・リューズ(AOC Margaux)16.5/20

マルグリット・ド・リューズさん-シャトー・パヴェイユ・ド・リューズ支配人
メドック最古のシャトーのひとつ。1862年からド・リューズ家が所有し、一度も分割されることなく、7世代続く家族経営。2004年にフレデリック・ド・リューズが引継ぎ、2010年から、コンサルタントのステファン・ドゥルノンクールが参画。マルゴー内のスーサン村に建つ、二塔を持つ美しい建築で知られている。32haの畑は東西の理想的な向き。砂利質土壌がカベルネとメルローに相応しい完璧な水はけを提供している。カベルネ・ソーヴィニヨン70%、メルロー40%。2020年エクセプショネル昇格、2025年も維持。構造と新鮮さ、そして赤果実と黒果実のクラシックな風味。単一区画を丁寧に管理しており、それが品質の一貫性支えている。
シャトー・レソン(AOC Haut-Médoc)15.5/20

ペネロプ・ゴドフロワさん―メゾン・ドゥルト支配人
2014年にメゾン・ドゥルトが取得。急速に質が向上している。オー・メドックで珍しい、サン・テミリオンに類似した粘土石灰質土壌。独特なテロワールはメルローの栽培に理想的で、他のオー・メドックのシャトーと一線を画す。ドゥルト家の経験と投資で最新鋭設備を備え、区画ごとの個性を引き出す丁寧な醸造が可能になっている。環境認証HVE3取得。ステンレスタンクで発酵後、樽で12カ月熟成。2025年にエクセプショネルに昇格。
シャトー・ルヴェルディ(AOC Listrac-Médoc)16/20

アンドレ・トマさん―シャトー・ルヴェルディ支配人
リストラック・メドック北部、ドニサン村の家族経営のシャトー。1953年からトマ家が3世代にわたり情熱を注いでいる。32haの畑はリストラックの典型的な石灰質・粘土質土壌で、力強く骨格あるワインができる。メルローとカベルネ・ソーヴィニヨン両方に適した土壌で、バランス取れたアッサンブラージュが可能。リュット・レゾネ栽培。2025年格付けでリストラックから唯一エクセプショネルに選出された。2011年ベスト・オブ・ワインツーリズム賞受賞。美しい鉄門の奥にオーク色の壁の魅力的な邸宅が建つ。濃密で凝縮感あり、リストラック特有の男性的スタイルをもちながら、洗練度があり長い余韻が感じられる。
シャトー・デュ・タイヤン(AOC Haut-Médoc)16.5/20

アルメル・クルューズさん―シャトー・デュ・タイヤン支配人
ボルドー市街から11km、メドックの玄関口にある歴史的シャトー。1896年にアンリ・クルューズが取得以来クルーズ家の所有。現在、5姉妹が経営する珍しい女性主導のシャトー。アルメル・クリューズさんは、4月からクリュ・ブルジョワのシャトーを束ねるアリアンス・デ・クリュ・ブルジョワ・デュ・メドックの会長を務めている。26haの畑にメルロー70%、カベルネ・ソーヴィニヨン20%、カベルネ・フラン10%。粘土石灰質土壌の各区画の個性を活かしたアッサンブラージュ。1932年クリュ・ブルジョワ、2020年エクセプショネルに昇格、2025年も維持。歴史的建造物指定の美しいシャトー、充実したワインツーリズムで年間1万人が訪問。

