富良野と言えばラベンダー畑が有名ですがハイライトはやっぱりウィンターシーズン。北の大地のちょうど真ん中ふらっと富良野ワイン旅へ出かけましょう。

富良野のワイナリー全4軒、最新リポート~ラベンダーだけじゃない。食とワインを巡るツーリズム~
10月28日未明、夜半から降り出した初雪は思いのほか勢いを強め、翌朝には旭川空港から美瑛町を通り、上富良野町、中富良野町、富良野市へと続く国道一帯は雪景色へと変わった。車窓からは木々の黄葉と新雪が同時に目に飛び込んできて新鮮だ。例年になく初雪が早かったのかと思えば、地元の人に聞くと、たいがいこの時期に一度は大雪が降るという。

富良野と言えば、日本人の脳裏にまず浮かぶのは、倉本聰原作・脚本のテレビドラマ『北の国から』だろう。倉本氏が主催していた「富良野塾」は2010年に閉塾したものの、富良野に生きる人々の心に今もその精神は深く息づいている。
一方、夏場の富良野観光の目玉は、ファーム一面に広がる紫のラベンダー畑。でも、ひとたび冬の富良野盆地を訪れてみれば、時に零下10℃、 20℃まで下がる過酷な気象条件下、北の大地でしか体験できない大自然の凜とした美しさと、都会では味わえない新鮮な冬野菜やジビエなど、土地がはぐんだ一期一会の豊かな美味に出合えるに違いない。そして今、冬の富良野を訪れる新たな理由に、ワイナリー巡りという大きな柱が加わりつつある。
実は富良野市は、市を挙げて北海道のワイン造りの品質向上に大きく牽引してきた立役者だ。もとはと言えば、国による米の減反政策に端を発したブドウ栽培だったが、ブドウの生育北限の地で、凍害に負けず、高品質で安定的な収量を上げるブドウ栽培に先人たちは心を注いできた。
自生する山ブドウと耐寒性の強いセイベル13053を掛け合わせて市が開発した、ふらの2号。山ブドウと清見の交配品種、山幸。もちろん、バッカス、ケルナーといった冷涼地に適したドイツ系ブドウ品種の品質向上もめざましい。ただ昨今、地球温暖化の影響を受け、驚くことにメルロ、シラー、カベルネ・ソーヴィニヨンといった以前では考えられなかった温暖地域の品種のレベルも急速に向上してきていると聞く。
富良野のワイン造りは、ここから始まった。
「ふらのワイナリー」


セイベル13053の交配品種、ふらの2号主体の『羆(ひぐま)の晩酌 2023年』3080円、ケルナーとバッカスを使った『シャトーふらの 白 2022年』4070円、ふらの2号ほか3品種ブレンド『シャトーふらの 赤 2021年』4070円
1972年、ワイナリーの正式名称である「富良野市ブドウ果樹研究所」として誕生した「ふらのワイナリー」。その名のとおり「市」が運営する全国でも珍らしいワイナリーだ。その規模は市が保有する畑が20ヘクタール、22戸の契約農家の畑が30ヘクタールの計50ヘクタール。年々増加するブドウの年間収量は300トン超、生産本数にして約20万本と、北海道で4番目の規模を誇る。

製造課長の末松千幸(ちゆき)氏
寒冷地である富良野でのワイン造りは、耐寒性の強い品種である白ブドウのセイベル5279 、黒ブドウのセイベル13053の安定した育成への取り組みとともにあった。その最大の貢献者こそ、まぎれもなくふらのワイナリーである。

ワイン造りの歩みと先人の努力がたどれる保管庫
さらに近年では、大量生産イメージから脱すべく付加価値の高いワイン造りに注力し、100パーセント富良野市産のミズナラ樽をスペインの樽メーカーに特注して醸造に使用。また野生酵母を使ったワイン造りにも取り組むなど、農家と協働の下、名実ともに富良野のワイン造りをリードし続けている。

「ふらのワイナリー」
北海道富良野市清水山
TEL 0167-22 -3242
開拓時代の農園からスタート。野生酵母・無濾過のワイン造り
「TADA WINERY」

酸化防止剤無添加と瓶詰め時少量添加の2ラインをリリース。左から、青いトロピカルな味わい『シャルドネ 224年』( 4180円)、雑味のない綺麗な仕上がり『ピノ・ノワール 2024年』4180円、滋味深さが魅力の『ミュラー・トゥルガウ オレンジ サンスフル 2024年』3300円
時は北海道開拓時代、1901年に畑作農園として創業。現「(有)多田農園」の代表取締役・多田繁夫氏の長年の夢叶い、「TADA WINERY」としてワイン醸造をスタートしたのは2016年のこと。現在は息子の尚弘氏が中心となりワイナリーを盛り立てている。

「父から受け継いだ基盤をもとに、さらなる品質向上にチャレンジ!」と多田尚弘氏
尚弘氏は横浜の大学の工学部を卒業後、エンジニアとして自動車メーカーに17年勤めたのち、昨年家族4人そろって栃木県から富良野にUターン。「自然を相手にするワイン造りは自動車とは違いますが、品質向上に向けた改善のプロセスなど、ものづくりに向き合う姿勢は同じ」と、目を輝かせる。

尚弘氏が目下最重要視しているのは徹底した選果だ。栽培品種は、フラッグシップキュヴェとなるピノ・ノワールやシャルドネから、バッカス、ミュラー・トゥルガウ、温暖化を背景にメルロ、シラー、カベルネ・ソーヴィニヨンなど温暖地域の品種まで幅広い。ワインはすべて野生酵母使用・無濾過で、13アイテムほどに及ぶ。

ワイナリー内のかわいらしいデザインは、ラベルを描く北海道在住のイラストレーターあべみちこさんによるもの
「前職で『やるからには世界を目指せ』という精神をたたき込まれました。その思いはワイン造りでも変わりません」

敷地内の宿に宿泊も可。左は開拓時代に植えられた樹齢100年超えの千両梨の木。当時は食べられる果物が貴重だった

ワインショップでは限定商品も含め直売。人気商品『にんじんジュース』や『紅玉りんごジュース』『千両梨ジュース』も

ワイナリー内のかわいらしいデザインは、ラベルを描く北海道在住のイラストレーターあべみちこさんによるもの
「TADA WINERY」
北海道空知郡上富良野町東9線北18号
TEL 0167-45-5935
最新の醸造施設を駆使し、ワインコンクールでも高評価
「ドメーヌレゾン」

18 haの自社畑ではヤギの排泄物とワインの搾りかすを堆肥にするサステイナブル農法を実践する。札幌や余市エリアからの買いブドウによる醸造も行う
「 日本ワインコンクール2025」や「ジャパン・ワイン・チャレンジ2025 」で複数アイテムが金賞を受賞するなど、メキメキと頭角を現す「ドメーヌレゾン」。その背景には、母体となる山梨県「まるき葡萄酒」を経営する「グループレゾン」がある。2019年のワイナリー立ち上げ時に導入した温度管理が容易なジャケット付きステンレスタンクなどの最新設備はもとより、23年に入社した若き醸造家、野吾隼矢(やごしゅんや)氏の着任によるところは大きい。

製造業から転身した野吾隼矢氏は1992年生まれ、東京都出身。
ニュージーランドでソーヴィニヨン・ブランに魅せられた野吾氏は鳥取県「北条ワイン」でワイン造りを学び、富良野へ移住。「寒暖差の大きい富良野盆地のポテンシャルを最大限引き出すことだけを考えています」と語る。

左から、ケルナー主体のスパークリング『ブラン・ビュル 2024年』2200円、果実味に澱接触由来の複雑さが加わった『中富良野ケルナー 2023年』3300円、シャープな酸と樽のニュアンスが溶け合う『中富良野シャルドネ2024年』4180円(写真上
冷涼地らしいしっかりとした酸が残るフレッシュなシャルドネ、今年初リリースとなったケルナーの貴腐ワインなど、高品質で意欲的な商品が次々と誕生している。

16℃の低温抽出、1カ月半の長期醗酵で醸した『貴腐 中富良野ケルナー 2024年』1万1000円/ 375 ml。高糖度でもさわやかな味わいが特徴(同下)


「ドメーヌレゾン」
北海道空知郡中富良野町東1線北4号
TEL 0167 - 44 - 3035
ビオディナミで栽培する、山幸のポテンシャルを切り開く
「カムイ・メトッ・ヌプリ」

水の精を名に関した『ミンツチ 2024年』は野生酵母使用、樽発酵・樽熟成、酸化防止剤無添加、無濾過・無清澄で造るスパークリング。ワイナリー直売価格4400円
北海道で総合的農事業を行う「アグリシステム㈱」を母体に持ち、*ビオディナミによる農場経営を行う「トカプチ㈱」が2023年に立ち上げた新生ワイナリー「カムイ・メトッ・ヌプリ」。ユニークな八角形をした醸造室と熟成室の2棟は自社設計によるものだ。

自社で保有する山林から切り出したカラマツで建造した醸造室の建屋
7ヘクタールの自社畑で栽培する品種は、ほぼ山幸(やまさち)のみ。十勝地方池田町が開発した山幸は山ブドウと清見を交配させた黒ブドウで、耐寒性が強く、山ブドウ由来の濃い色調と酸味、野性味溢れる味わいが特徴の赤ワインとなる。
カムイ・メトッ・ヌプリでは山幸を用いて醸すペティアン、イタリア製大樽で発酵・熟成するワインのほか、ジョージアのクヴェヴリを意識したテラコッタタンクを用いた全房発酵・長期醸しによるワインなど、数種類のキュヴェを試行錯誤しながら造る。

ブドウ栽培と醸造を一任されている浜田和也氏は1980年旭川市生まれ。トカプチ入社後、岩見沢市の受託醸造所「10R(トアール)」でワイン造りを学ぶ
* オーストリアの人智学者、ルドルフ・シュタイナー( 1861~1925年)が提唱した有機栽培農法。太陰暦に従い、宇宙のリズム、天体の運行に合わせて農作業を行う

「カムイ・メトッ・ヌプリ」
北海道空知郡上富良野町東5線北23号
TEL 0155 - 62 - 2887




