国内のみならず海外のコンクールでも受賞し、高い評価を得るワインが増えるなど、国内外で評価が高まる「日本ワイン」。生産者が結集し、現状や課題、そして未来への展望を語り合う「第2回日本ワインサミット」が2月8日、山梨県甲府市で開催された。会場では二部構成のパネルディスカッションが行われ、日本ワインを取り巻く現状と、その可能性について活発な議論が交わされた。

画像: 日本ワインの光ある未来を見据えて「第2回日本ワインサミット」開催

サミット第一部
~日本ワインの現状と広がる課題~

画像: サミット第一部 ~日本ワインの現状と広がる課題~

第一部のテーマは「日本ワインの現状」。司会を務めた「やまなし観光推進機構」理事長の仲田道弘氏が、世界と日本におけるワイン消費量の推移を解説した。

日本のワイン市場は、約7割が海外からの輸入ワインで、残りの3割が国内醸造。そのうち、国内で栽培されたブドウから造られる「日本ワイン」は約5パーセントにとどまり、まだ少ないのが現状だ。一方、醸造免許数は2000年の246場から2022年には522場へと増加し、この20年余りで倍以上となった。しかしその反面、約6割のワイナリーが赤字で経営に苦しんでいるという。

こうした状況を踏まえ、各地の生産者からはそれぞれの課題と展望が語られた。

「北海道ワイナリー協会」副会長で「北海道ワイン」代表取締役社長の嶌村公宏氏は「飲み手もブドウの生産量も減少する中で、ワイナリーだけが増えている。どう対応していくかが今後の課題だ」と指摘する。そのうえで、「道内の限られたパイを奪い合うのではなく、『北海道』という知名度を生かし、ワイン産地として訴求していきたい」と語り、地域ブランドとしての発信の重要性を強調した。

また「山梨県ワイン酒造組合」会長で「勝沼醸造」代表取締役会長の有賀雄二氏は、山梨を代表する固有品種「甲州」に言及。「歴史ある品種の魅力を、和食文化とともに発信していきたい」と述べ、日本ワインならではの価値を世界に伝えていく考えを示した。

産地の連携とブランドづくり

画像: 産地の連携とブランドづくり

「長野県ワイン協会」理事長で「たかやしろファーム&ワイナリー」代表取締役の武田晃氏は「ワイナリーの数は多いものの、小規模な生産者が多く、産地全体としてのPRの難しさがある」と指摘する。一方で、県内の日本酒蔵や醤油、味噌蔵などと連携した「発酵バレーNAGANO」の取り組みを紹介し、「発酵を含めた食文化として発信していきたい」と語った。

さらに「山形県ワイン酒造組合」理事長で「酒井ワイナリー」代表取締役の酒井一平氏は「小さな産地だからこそ結束を強め、国内外に向けて知名度を高めていきたい」と話す。地域としての一体感を高めることで、産地ブランドの確立につなげたい考えだ。

各地の取り組みはそれぞれ異なるものの、日本ワインの価値をいかに国内外に発信していくかという課題は共通している。産地内の連携はもちろん、産地の枠を超えた「チームジャパン」としての協力体制の構築も、日本ワインのさらなる発展に向けた重要なテーマとなりそうだ。

サミット第二部
~日本ワインの未来を語る ~

画像: サミット第二部 ~日本ワインの未来を語る ~

続く第二部では「日本ワインサミット実行委員会」会長であり「日本ソムリエ協会」名誉会長の田崎真也氏がコーディネーター、「日本醸造協会」副会長・常務理事の後藤奈美氏 、「メルシャン」(山梨県)エグゼクティブ・ワインメーカーの安蔵光弘氏がコメンテーターを務め、「日本ワインの未来」について討論が行われた。国内外で注目される日本ワインを、いかに発展させていくか、生産者や関係者が率直に課題と取り組みを語り合った。

気候変動と品種選択の対応

画像1: 気候変動と品種選択の対応

「菊鹿ワイナリー」(熊本県)の西村篤氏は、契約農家の高齢化や後継者不足によるブドウ確保の難しさを指摘し、自社畑での栽培に取り組んでいることを明かした。「温暖化に加え、九州では収穫前に台風が来ることも多い。品種を選抜しつつ、新酒として楽しんでいただく商品施策も考えている」と語った。

「シャトー・メルシャン椀子ワイナリー」(長野県)の小林弘憲氏は、気候変動への対応策を短期・中期・長期の視点で説明。「糖度と酸度のバランスを見極め収穫精度を高める」「成熟の早い品種への改植」「冷涼な地域への進出」など、多角的な取り組みの必要性を示した。

田崎氏は温暖化に伴う病害リスクへの対策としてPIVI(真菌耐性ブドウ品種)について意見を求め、「カーブドッチワイナリー」(新潟県)の掛川史人氏は20年以上の栽培経験を踏まえ積極導入の意欲を示した。一方で「タケダワイナリー」(山形県)の岸平典子さんは、「誰も知らないブドウに植え替え、美味しくないワインしかできなければ本末転倒」と指摘。「マスカット・ベーリーAやデラウェアなどのハイブリッド品種から、美味しいワインを確実に造ることが重要」と述べた。

画像2: 気候変動と品種選択の対応

経営課題とワインツーリズム

画像: 経営課題とワインツーリズム

全国的にワイナリー数は増えているものの、その約6割が赤字という現状も報告された。函館市に自社畑を構え、ブルゴーニュ流のスタイルを踏襲する「ド・モンティーユ&北海道」(北海道)の矢野映氏は「ワイナリーが増えてもブドウが足りない状況は深刻」と指摘。岸平さんも、原料や水源不足によるブドウの取り合いや、価格上昇が経営難につながる問題を語り、「先を歩んできたワイナリーが伝えるべきことを伝え、流通や飲食関係者に支えてもらうことが重要」と強調した。

議論は、日本ワインの認知拡大策としての「ワインツーリズム」にも及んだ。カーブドッチは創設当初からツーリズムを意識し、レストランやベーカリー、温泉施設を備え、周辺ワイナリーと「ワインコースト」を形成している。掛川氏は「年間30万人が訪れるが、多くはワイン購入が目的ではない。足を運ぶことでファンになり、毎年新しいワインを楽しみにしてくれる。ロイヤルカスタマーを作ることが意義だ」と説明し、田崎氏も「日本ならでは、その土地ならではの唯一無二のワインを生み出す必要がある」と語った。

山梨県の使命と未来構想

画像: 山梨県の使命と未来構想

最後に長崎幸太郎知事が挨拶。「日本ワイン発祥の地として全体を牽引し、その価値と文化を世界に示す責任がある。それが今の山梨県に課せられた役割であり使命だ」と力強く述べ、近く山梨を舞台に動き出す「日本ワインミュージアム構想」への意気込みを示した。

「あの人」が語る日本ワインの未来

パネルディスカッション終了後には、各地のワインを試飲できる交流会を開催。生産者や関係者に、日本ワインの未来について直接話を聞いてみた。

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日本ソムリエ協会名誉会長
田崎真也氏
「ワイナリーが増えているのにブドウの供給量が足りないことや、6割ものワイナリーが赤字経営になっている現状など、日本ワインの課題を議論し、広く伝えられたのは本当に有意義でした。ワインは農産物なので、まずはワイナリーよりもブドウ畑を作ることから始めるべきで、そこからようやくテロワールを表現できるワインが生まれます。日本でもフランスのAOCのような細やかな原産地呼称の仕組みを整えることが急務だと考えています。これからもワイナリーや関係者の皆さんと一緒に、日本ワインの未来を描いていこうと、心新たにした一日でした」

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「ドメーヌ・タカヒコ」(北海道)
醸造家 曽我貴彦氏
「日本ワインは価格面で安価な輸入ワインと対抗するのは難しいので、プロのソムリエがいるレストランで提供して、その個性や魅力、作り手の思いを伝えていくことが、日本ワインが生き残る一つの『近道』だと考えています。今は輸出にも力を入れていますが、世界のレストランで評価されれば、日本でもその価値が注目されます。さらに、甲州のような固有品種はもちろん、国際品種でも『日本らしさ』や『その土地らしさ』をしっかり表現すれば、小さな生産者でも十分に勝負できると思っています」

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「安心院葡萄酒工房」(大分県)
工房長 古屋浩二氏
「ブドウ品種については、大分の温暖なテロワールを映し出すアルバリーニョが進化を続けていて、畑ごとの個性も表現できるようになってきました。県と一緒に新しい品種の交配にも取り組んでいて、健全なブドウを栽培することはもちろん、品種の特性やその土地の特徴をしっかり表現して伝えることが、飲み手の皆さんにとって『日本ワインならではの魅力』として届くと信じています」

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「シャトー酒折」(山梨県)
醸造責任者 井島正義氏
「農作物であるブドウは、温暖化の影響を受けていることが今日のディスカッションでも示されました。私たちは、「気候変動に合わせたワインのスタイル」を模索できるのではないかと考えています。もちろん栽培家の腕が試される部分ですが、日本の栽培技術は世界的にも高く、うちのワイナリーでは優秀な栽培家とともに科学的な知見も活用しながら、変化する時代に向き合っていきたいと思っています」

画像5: 「あの人」が語る日本ワインの未来

「朝日町ワイン」(山形県)
栽培醸造係長 鈴木俊哉氏
「私たちも農家さんからブドウを買ってワインを造っており、ブドウの供給の不安定さは常に実感しています。そうした現状を踏まえながら、各地のワイナリーの取り組みを聞き、ファンを作ることは大事だと改めて感じました。小さい産地だからこそ団結力が強いのが山形の強みなので、いいワイン造りを続けながら山形の魅力を伝えていきたいですね」

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株式会社 横浜君嶋屋
代表取締役社長 君嶋哲至氏
「日本ワインは「高い」と言われることもありますが、飲みやすくて料理に合わせやすい懐の深さがあるので、1本で通せると考えれば非常に満足感が高いと思います。その魅力を体験してもらうためには、やはりレストランで提供することが重要だと感じています。流通や販売の立場としては、料理との相性はもちろん、産地や造り手の思いもきちんと伝えて、日本ワインを選ぶ飲み手をもっと増やしていきたいですね」

text by Asako NAKATSUMI

photographs by Shoichi NOSE

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