メドック格付け第4級の「シャトー・マルキ・ド・テルム」が、現オーナーであるセネクローズ(Sénéclauze)家の所有となってから、2025年でちょうど90周年の節目を迎えた。これを記念し、2025年産プリムールの試飲会に併せて、過去20年間の進化を辿る垂直試飲会と、シャトー併設のレストランでの歴史的な昼食会が開催された。シャトーの歴史を紐解くと、1762年の誕生以来、このシャトーを所有した家族は意外にも少ない。セネクローズ家の前には、フイヤラ家が約120年にわたりシャトーを守り続けていた。同家の祖先は、ピレネー山脈の麓、スペインと国境を接するアリエージュ県からわずか11歳でマルゴーへやってきた一介の農業労働者であったが、生涯をシャトーに捧げ、最終的にその全権利を買い取るに至ったという、メドックにおける立身出世の象徴的な物語を秘めている。1935年にこの歴史を継承したセネクローズ家は、現在、第4世代のパロマ・セネクローズさんがディレクターを務め、医師である兄のアルノー氏と共にシャトーの舵取りを担っている。

左からテクニカル・ディレクターを務めるセバスチャン・エスケール氏、オーナーでディレクターのパロマ・セネクローズさん、メットル・ド・シェのソラナ・レイ・シセレスさん
このシャトーの最大の強みは、1855年の格付け当時からほとんど変わることのない、45haのブドウ園だ。現在、テクニカル・ディレクターを務めるセバスチャン・エスケール氏は、以前、栽培責任者としてぶどう園に深く関わっていた人物で、彼の就任は、テロワールこそがワインの質の出発点であるというシャトーの姿勢を明確に示している。畑は大きく3つの区画に分かれ、シャトー周辺の砂利と粘土の混合土壌、保水力の高い粘土質、そしてカベルネ・ソーヴィニヨンの表現に最適な深い砂利層が、ワインにミネラル感と複雑さを与えている。

左から『キュヴェ1762』、『グランヴァン2021』、『アンプラント』

2024年から経営責任者を務める4代目のパロマ・セネクローズさん(中央)。両脇に立つのは3代目のピエール・ルイ・セネクローズ氏とフィリップ・セネクローズ氏。
垂直テイスティングは、シャトーが歩んできた近代化の軌跡そのものだった。最初の転換点となったのは2010年で、コンサルタントとしてジュリアン・ヴィオー氏を迎え、タンクの小型化を含む醸造所の再構築が始まった。続く2012年には初めて木製の円錐型タンクが導入され、より精密な抽出が可能となった。そして2018年、醸造所の改修完了と共にラベルデザインも一新され、新生マルキ・ド・テルムのスタイルが確立された。2025年産プリムールは、病害の影響で収量が23hl/haと極めて低くなったが、驚くべき輝きと凝縮感、そして特有のミネラル感を備えたミレジームとなった。品種構成はカベルネ・ソーヴィニヨン64%、メルロ34%、プティ・ヴェルド2%。

シャトー・マルキ・ド・テルム内にあるガストロノミーレストランで開かれた記念昼食会。挨拶するパロマ・セネクローズ氏
試飲の後は、2021年にシャトー内にオープンしたレストラン「オ・マルキ・ド・テルム[AU] MARQUIS DE TERME」へと場所を移した。ここは、ラ・ロシェルの名門レストランを率いる、クタンソー家の一人、グレゴリー・クタンソー氏とのパートナーシップにより、ボルドーでも珍しい「シャトー内で常に美食を楽しめる場所」として機能している。この日の昼食会は、シェフのバンジャマン・トレザン氏が「料理にワインを合わせる」一般的な手法ではなく、「ワインから料理を構想する」という挑戦的なアプローチで料理全体を作り上げた。供されたワインは「5」で終わる6つの古酒。力強い1975年産にはビスク・ド・オマールとイカのタリアテッレ、若々しい2005年産には炭火アスパラガスと半熟卵(ソース・モレ)を合わせた。

驚きだったのは1985年産と魚料理の組み合わせだ。イシビラメのローストに鶏のジュを合わせ赤ワインとの調和を図った。2015年産ダブルマグナムには葡萄の枝で焼いた牛リブロースとボルドレーズ・ソースのクラシックな組み合わせ。パロマ氏の誕生年1995年産には燻製チーズ・トム・ド・サヴォワ、締めくくりの稀少な1955年産にはフレッシュな赤い果実とクリームのデザートが、70年の歳月を経たワインの活力を蘇らせ、見事だった。
マルキ・ド・テルムは現在、所有100周年となる2035年に向けて、さらなる畑の再構築を進める長期プロジェクト『マルキ・ド・テルム 2035』の真っ只中にある。徹底したテロワール主義と、それを支える献身的なチームの熱意、そしてゲストを家族のように迎えるホスピタリティ。今回の垂直試飲と昼食会は、シャトー・マルキ・ド・テルムが単なる歴史の守護者ではなく、マルゴーの未来を切り拓く力を蓄えつつあることと感じさせるものだった。

