2026年7月、日本ワインマスターズクラブ初の生産者イベントが「雪川醸造」山平哲也氏を迎えて開催された。50名近い参加者が情熱あふれる説明に耳を傾け、有識者からは活発に質問が飛び交う有意義な会となった。中でも関心の高かった南半球プロジェクトについて、山平氏に話しを聞いた。

一年に複数回のワイン造りに挑む「ボーダーレス・ワインメーカー」

東川町産セイベル13053のロゼワイン『スノーリバーロザート 2024年』の説明をする山平氏。セイベル13053は赤ワインとして醸造されることが多い
提供されたワインの一つに、ニュージーランド・ノースカンタベリーで自ら収穫、醸造した『Snow River Sauvignon Blanc North Canterbury 2024年』がある。山平氏は、日本と季節が逆になるニュージーランドで2024年から、南アフリカでは2025年から醸造を行う、国境を越えて活動するワインメーカーだ。なぜ「越境」するのか。そこには三つの意義がある。提供されたワインの一つに、ニュージーランド・ノースカンタベリーで自ら収穫、醸造した『Snow River Sauvignon Blanc North Canterbury 2024年』がある。山平氏は、日本と季節が逆になるニュージーランドで2024年から、南アフリカでは2025年から醸造を行う、国境を越えて活動するワインメーカーだ。なぜ「越境」するのか。そこには三つの意義がある。

「スノーリバーシリーズ」は余市・石狩・東川の買いブドウで醸造したワイン。自社栽培ブドウの「風の歌」など提供されたワインは10種類以上
一つ目は、経験の密度を高めること。ワイン造りは、年に一度の収穫と仕込みに多くの判断と作業が集中する。30年のキャリアとは、言い換えれば30回のヴィンテージを経験したということでもある。しかし、日本と季節が逆になる南半球でも醸造に携わることで、1年に複数回の収穫と仕込みを経験できる。異なる土地、異なるブドウ、異なる条件のもとで判断を重ねることが、ワインメーカーとしての対応力と経験の幅を広げている。

東川町にある南西向き斜面のヴィンヤード。人と生態系に負荷のかからない栽培を実施。また、一日の寒暖差が大きく、7~8月の高温、9~10月の低い夜温がブドウの糖度と酸にいい影響を与える
二つ目は、異なる哲学や技術が交わる場所に身を置くこと。世界各地のワイナリーには、その土地の歴史や気候、文化に根ざした独自の考え方がある。現地のワインメーカーとともに働き、判断基準や醸造哲学に触れることで、自らのワイン造りを客観的に見直すことができる。異なる価値観や技術を吸収し、自身の経験と交差させることが、雪川醸造のワイン造りに新たな奥行きを与えている。

専用の設備による細やかなコントロールや、収穫からボトリングまで全ての重要工程への立ち会いを目指すことにより、海外のブドウを雪川醸造のワインへと昇華させるボーダーレスなワイン造りの深化を目指す
三つ目は、世界のワイン造りの「今」を現場で感じること。気候変動への対応、醸造技術の進化、アルコール消費の変化、消費者が求める味わいの変化など、ワインを取り巻く環境は常に動いている。こうした変化は、情報として知るだけでは十分ではない。実際に現地へ入り、造り手や市場の空気に触れることで初めて見えてくるものがある。その感覚は、雪川醸造が次の方向を考えるうえで重要な手がかりとなっている。
東川へ持ち帰る

2024年、2025年はニュージーランド・ノースカンタベリーで醸造。マウント・ビューティフルのアラスター・メーリングMWからは助言をいただいた
「南半球でのワイン造りに挑戦して、3年が経過した。積み重ねてきた経験には確かな手応えがある」と山平氏。雪川醸造のワイン造りは、「ブドウ本来の繊細さと透明感を備えた、丁寧な日々の一品の隣に心地よく収まるワイン」をモットーとしている。北半球と南半球を行き来しながら、一年を通じてワインと向き合う。そこで得た技術、感覚、思想を北海道・東川へ持ち帰り、日々の生活に自然と馴染むワイン造りへとつなげていく。雪川醸造はこれからも、国境にとらわれない「ボーダーレス・ワインメーカー」として歩み続けていく。
text by「日本ワインマスターズクラブ」山口ますみ、馬場史香DipWSET
