ソムリエと樋口真一郎氏(髭男爵)と学ぶ品種の勉強会。ワイン用ブドウ品種について、基礎知識から味わい方まで、とことん学ぶ連載です。本誌『ワイン王国 132号』にも詳しく掲載されているので、併せてご覧ください。デジタル版はこちらから。
第5回の「甲州」に続く今回のテーマは「シャルドネ」。樋口真一郎氏と「レストラン アピシウス」シェフソムリエの情野博之氏と一緒に、世界各地で造られている「白ワインの王様」、シャルドネの魅力に迫る。
シャルドネのいろは
世界を代表する白ブドウ品種。熟すと琥珀を帯びた黄金色になり、小粒で果皮は薄い。土壌や気候への順応性が高く病害虫にも強いため、世界各地で広く栽培されている。収穫時期や醸造技術による造り手の個性が反映されやすく、高収量でも果実味豊かなワインになる。
主な香り
冷涼な産地ではレモンやグレープフルーツなどのさわやかな柑橘類。温暖な土地では白桃やアプ
リコット、マンゴーなどの甘やかなフルーツ。
味わい
果実味が豊か。冷涼な産地では酸が高くミネラル豊富で、温暖な土地では旨味とコクが出る。
シノニム(別名)
ムロン・ダルボワ、エピネット、プティ・サン・マリ、モリヨンなど。
テロワールと造り手の個性が生み出す多彩なバリエーション
シャルドネの原産地については諸説ある。一つは、フランス、ブルゴーニュのシャルドネ村原産という説。一方、中東または東欧で生まれオーストリアを経由し、シャルドネ村に根付いたという説もある。
シャルドネは非常に有名なワインである一方、「ワインの勉強を始めたころは個性がわかりにくいというか、捉えどころがないイメージでした」という樋口氏。実際、シャルドネとはどんな品種だろうか?
「個性が弱いところが個性とも言える、非常にニュートラルな品種です」と情野氏は言う。
「土地や気候への適応力が高いので、世界中で良質なワインが造られています。果実味が豊かでハーブ香が少ないという共通点はありますが、固有の香りや味わいが明確でない分、栽培地の土壌や気候、造り手の醸造スタイルが表現されやすいのも特徴ですね」
七変化する白ブドウの王様、シャルドネ。今回は6アイテムを試飲し、その特徴をつかんでみた。
これぞ! シャルドネ6選
品種の個性が表現された6アイテムを紹介。
造り手や産地による味わいの違いを知り、お気に入りの1本を見付けよう。
『ロス ヴァスコス シャルドネ 2022年』 (チリ)
グレープフルーツやレモンを思わせる柑橘類のさわやかなアロマに加え、ほのかにドライハーブの清涼感も。口に含むと果実味が豊かで、引き締まった酸とミネラルの余韻が心地いい。切れ味がよくフレッシュ、カジュアルで飲みやすい1本。
『トワベー・エ・オウモン 白 2021年』 (フランス/ラングドック=ルーション地方)
白桃やアプリコットなどの華やかな香りに、マロラクティック発酵(*1)由来のヨーグルトやココナッツのニュアンスも。味わいはまろやかでコクがあり、ふくよかな果実味を感じる。アフターに現れるキレのいい酸味が心地よく、飲み疲れしない。
*1 乳酸菌によりワインの中のリンゴ酸が分解される現象で、酸味が柔らかいワインとなる
『シャルドネ・フリウリ 2021年』 (イタリア/フリウリ-ヴェネツィア・ジュリア州)
レモンを思わせるさわやかですっきりとした香りに、ナッツや、樽熟成から来るトースト香が加わる。ややコクのある味わいでミネラル豊か、程よい酸味が味わいの輪郭を形成する。立体感とメリハリがあるため、料理に合わせやすい1本。
『高畠 ラ・クロチュア・エレクトリック・エン・上和田 シャルドネ 2019年』 (日本/山形県)
熟したパイナップルや柑橘系フルーツのアロマに、樽熟成に由来するローストしたヘーゼルナッツの香りが重なり複雑。酸味は穏やかでアタックはまろやかだが、飲み進むうちに果実の甘やかさがしっかりと表現される。旨味を伴った余韻も印象的。
『ウィリアム フェーブル・シャブリ 2020年』 (フランス/ブルゴーニュ地方)
グレープフルーツやレモンのフレッシュな柑橘類の香りに、キンメリジャン土壌(*2)由来のモカフレーバーが感じられる。生き生きとしたキレのある酸とミネラル、果実味のバランスが良い。メリハリのある味わいで飲み疲れせず、少し温度を上げても楽しめる。
*2 カキの貝殻の化石を多く含む粘土石灰質土壌
『ジヴリー シャン・プーロ 2020年』 (フランス/ブルゴーニュ地方)
白桃やアプリコットの甘やかな香りに、樽発酵由来のヴァニラやスパイスのニュアンスが重なり、リッチな印象。味わいは豊かな果実味主体で、これを上品な酸とほのかな塩味が引き締め、ミネラルが骨格を形成する。大きめのグラスで楽しみたい。
※価格などのデータはすべて2022年11月現在のものです
迷ったらシャルドネ
美味しさが保証される高いポテンシャル
試飲を終えた樋口氏は「“個性がつかみにくい”と感じていたシャルドネでしたが、1本1本それぞれに特徴があることがわかりました。テロワールの特徴に加えて、醸造方法の違いなど、造り手の哲学や人の手が介入するとワインはどう変わるのかを知るには絶好の品種かもしれません」と振り返った。
スタイルの多様性に加え、広い温度帯で楽しめるのも魅力の一つだと情野氏は言う。
「飲む温度は産地の気候に合わせるといいですよ。温暖な地方なら高め、冷涼な土地なら冷やして。12℃くらいからスタートして、味を引き締めたいと思えば氷水に漬けて調整を。赤ワインと同じ18~19℃で美味しく飲めるものもあります」と、シャルドネをさらに楽しむコツを教えてくれた。
産地、造り手、グラス、温度‥‥‥。さまざまな要素を掛け合わせて多様なスタイルを楽しみ、自分が好きなシャルドネを見付けよう!