新しいワイナリーが増えつつある北陸地方。「第二の人生」でワイン造りに夢をかける人たちがいる。地域への愛と思い、テロワールを表現するブドウ栽培……。ワインへの情熱に触れに、いざ富山、石川、福井へ!

【富山県】「ドメーヌ・ボー」 未来へと続く「美しきワイナリー」を

画像: (左から)醸造長の松倉一矢氏、代表取締役社長の中山安治氏、企画・広報主任の中山陽介氏

(左から)醸造長の松倉一矢氏、代表取締役社長の中山安治氏、企画・広報主任の中山陽介氏

ワインで地域に恩返ししたい

富山県南西部に位置する南砺(なんと)市立野原は、イチゴや柿といった果実が豊富に採れる地域。この地に2020年、新しいワイナリーが誕生した。フランス語の「美しい(beau)」を冠する「ドメーヌ・ボー」だ。

同県高岡市で酒屋を営んでいた中山安治氏は、30年ほど前に飲んだ銘醸ワインに「全身がしびれるほど感動」し、厳選したワインと日本酒のみを取り扱うように。シニアソムリエの資格を取得して地域の人々や後進にワインの情報や魅力を伝え続けた。経営危機や大病を乗り越えた67歳の時、「地域への恩返し」としてワイン造りを決意。

画像: 栽培している13 種のブドウはすべて欧州系品種。「日本の、立野原のテロワールに合う独自のワインになると確信しています」と中山氏

栽培している13 種のブドウはすべて欧州系品種。「日本の、立野原のテロワールに合う独自のワインになると確信しています」と中山氏

「100年、200年先まで続くワイナリーがあれば、未来に美味しいワインを届け続けられる。そう考えたのです」

その思いに自治体をはじめ多くの「同志」が集い、18年から立野原地域に拓いた14ヘクタールの畑で、白はシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランなど6種、赤はカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロなど7種を栽培する。富山県は国内でも日照時間が短く雨が多い。また、立野原の畑は標高200メートル前後と高くなく昼夜の寒暖差もそう大きくない。

画像: 富山平野を一望に見渡せるロケーションに建つワイナリー。ショップでは、雄大な景色を眺めながらワインやブドウジュースの試飲もできる

富山平野を一望に見渡せるロケーションに建つワイナリー。ショップでは、雄大な景色を眺めながらワインやブドウジュースの試飲もできる

「ブドウにとって決していい条件ではない、糖度は上がるものの酸が保てないのでは、という懸念も。しかし、テロワールに何かしらの力があるのか、しっかりと酸の乗ったブドウがはぐくまれるのです」と醸造長の松倉一矢氏は手応えを見せる。

目指すは「日本の*コート・ドール」

自社畑のブドウに加え、長野、山梨からブドウを買い付ける。今年から、国内外のコンクールにも挑戦するようになり、「日本ワインコンクール2023」では長野県高山村産ブドウを使った『Aroma Chardonney from Takayama Village 2022年』が金賞に輝く快挙を成し遂げた。

画像: 醸造機器は温度管理に優れたイタリア製にこだわるなど、最新鋭の設備をそろえている。「目指すのはきれいなワイン。低温で丁寧に醸していきます」。日本酒の蔵人だった松倉氏ならではの経験がワイン造りに映し出される

醸造機器は温度管理に優れたイタリア製にこだわるなど、最新鋭の設備をそろえている。「目指すのはきれいなワイン。低温で丁寧に醸していきます」。日本酒の蔵人だった松倉氏ならではの経験がワイン造りに映し出される

高品質なブドウ、ワインを追求しつつ、ワイナリーのある立野原を「果樹の郷」として、カフェやレストラン、オートキャンプ場、アートなどが楽しめるエリアにしようと取り組みを進めている。実りの秋には稲穂からブドウの葉まで黄金色になることから「コート・ドール構想」と銘打つ。ワインと文化、豊かな自然が、旅人を富山にいざなう。

*フランスのブルゴーニュ地方に位置しているワイン産地。「黄金の丘」という意味を持ち、南北にいくつもの丘が連なっている

画像: 左から、自社畑で収穫したブドウを使用。ハーブや柑橘のフレッシュな香りが心地いい『立野原 ソーヴィニヨン・ブラン 2022 年』(5500 円)、サンジョヴェーゼ、マルスラン、メルロをブレンドした定番の赤ワイン『ドメーヌ・ボー ルージュ 2021 年』(2970 円)、メルロ、ヴィオニエ、シャルドネを混醸した『ナンサンブル2022年』(3630円)は華やかな香りとメロンや白桃のようなニュアンスが特徴 *価格はすべて税込
左から、自社畑で収穫したブドウを使用。ハーブや柑橘のフレッシュな香りが心地いい『立野原 ソーヴィニヨン・ブラン 2022 年』(5500 円)、サンジョヴェーゼ、マルスラン、メルロをブレンドした定番の赤ワイン『ドメーヌ・ボー ルージュ 2021 年』(2970 円)、メルロ、ヴィオニエ、シャルドネを混醸した『ナンサンブル2022年』(3630円)は華やかな香りとメロンや白桃のようなニュアンスが特徴 *価格はすべて税込

【石川県】「金沢ワイナリー」 アーバンワイナリーで味わう「石川テロワール」

画像: 「ピノ・ノワールが好き」という井村辰二郎氏。能登半島の珠洲市でピノ・ノワールとシャルドネの栽培を始めた。「難しいけれど挑戦しがいがあります」と笑顔を見せる

「ピノ・ノワールが好き」という井村辰二郎氏。能登半島の珠洲市でピノ・ノワールとシャルドネの栽培を始めた。「難しいけれど挑戦しがいがあります」と笑顔を見せる

金沢の人気観光地、ひがし茶屋街のほど近く。大正期の「金澤町家」を利用した風情溢れる「金沢ワイナリー」は、フレンチレストランを併設するアーバンワイナリーだ。

25年余り前から米や小麦、大豆、野菜などの有機栽培に取り組んできたオーナーの井村辰二郎氏。栽培した穀物を使い酒蔵とともにオーガニックの日本酒や焼酎を手掛けてきたが「自分の手で醸造まですべてやってみたい。ワインが造れたら最高だ」と思い立つ。今から9年前、50歳の時のことだった。

画像: 2階はレストラン「ア・ラ・フェルム・ドゥ・シンジロウ」。自社農園で育てるオーガニック食材と「金沢ワイナリー」のワインが楽しめる。壁には、珠洲の珪藻土、穴水の赤土、河北潟干拓地の粘土を施しテロワールを表現している

2階はレストラン「ア・ラ・フェルム・ドゥ・シンジロウ」。自社農園で育てるオーガニック食材と「金沢ワイナリー」のワインが楽しめる。壁には、珠洲の珪藻土、穴水の赤土、河北潟干拓地の粘土を施しテロワールを表現している

こだわったのは「県産ブドウを使ったサステイナブルなワイン造り」。

「細長い地形の石川県は、土壌や気候が多彩でさまざまな農産物や海産物に恵まれている。この多様性を表現したいと考えました」と井村氏。能登半島の耕作放棄地を訪ねると、米や麦が育ちにくい珪藻土などのやせた土壌の傾斜地が多く、「農地の再生にもつながるのでは」と考えた。2018年、この地で醸造用ブドウの栽培に着手。能登最北端の珪藻土壌の地で、メルロとシャルドネの栽培に挑戦した。天然酵母を用い酸化防止剤を使わないナチュラルなワインを目指す。

画像: 1 階の醸造所は10℃に温度管理をしてワインを仕込む

1 階の醸造所は10℃に温度管理をしてワインを仕込む

「テロワールを映し出すブドウそのものの風味をボトルの中に描きたい」と井村氏は意気込みを語る。

建物の1階でワインを醸し、2階のレストランで自社農園の有機野菜や多彩な地元食材とのマリアージュを提供する。ワインと料理が奏でる石川県のテロワールを、金沢の町でゆるりと堪能してみては?

画像: 左から、デラウェアの甘酸っぱいジューシーさが味わえる『KAGA デラウェアNV』(2420 円)、トップキュヴェの『マリアージュ 2020 年』(3520 円)は、加賀のマスカット・ベーリーA と能登のヤマ・ソーヴィニヨンをブレンドした『NOTO セイベル9110 2020 年』 ※価格はすべて税込

左から、デラウェアの甘酸っぱいジューシーさが味わえる『KAGA デラウェアNV』(2420 円)、トップキュヴェの『マリアージュ 2020 年』(3520 円)は、加賀のマスカット・ベーリーA と能登のヤマ・ソーヴィニヨンをブレンドした『NOTO セイベル9110 2020 年』 ※価格はすべて税込

【福井県】「白山ワイナリー」 山のワイナリーが醸すヤマブドウワイン

画像: 「凝縮した果実味、色調、そして野趣溢れる峻厳な酸味には神々しさすら覚えます」とオーナーの谷口一雄氏。今では国際コンクールで受賞するほどのワインを生み出している

「凝縮した果実味、色調、そして野趣溢れる峻厳な酸味には神々しさすら覚えます」とオーナーの谷口一雄氏。今では国際コンクールで受賞するほどのワインを生み出している

霊峰白山の麓に広がる福井県大野市。豊かな自然、山を下りながら磨かれる美しい水に恵まれた歴史と伝統が息づく町は「天空の城」として知られる大野城の城下町として栄えてきた。

県北東部、大野盆地と周辺山地を総称する「奥越地域」に自生するヤマブドウは、黒紫色に熟し、甘酸っぱく凝縮された果実味の野趣溢れる味わいが特徴だ。何と何千年も前からこの地に自生してきたという。このブドウに着目し、1997年から本格的な栽培とワイン造りを始めたのが、当時会社員だった谷口一雄氏。脱サラして未経験から始めた。

画像: 「凝縮した果実味、色調、そして野趣あふれる峻厳な酸味には神々しさすら覚えます」とオーナーの谷口一雄氏。今では国際コンクールで受賞するほどのワインを生み出している

「凝縮した果実味、色調、そして野趣あふれる峻厳な酸味には神々しさすら覚えます」とオーナーの谷口一雄氏。今では国際コンクールで受賞するほどのワインを生み出している

「標高400メートルにある畑は中山間地の傾斜地にあり、火山灰土の黒ボク土の土壌は水はけもいい。昼夜の寒暖差も大きく、ブドウ栽培に適しているのです」

ヤマブドウから造るワインを特産に育て地域を盛り上げようと仲間を募り、2000年に「白山やまぶどうワイン(白山ワイナリー)」を立ち上げた。

谷口氏の思いに共感したファンも多く、ワインの予約やブドウ狩り体験などのイベントに優先的に参加できる「白山ワイナリー倶楽部」も人気だ。

自生種のヤマブドウに加え、現在は、ヤマブドウの交配品種「小公子」「ヤマ・ソーヴィニヨン」「ヤマ・ブラン」も手掛けている。谷口氏は「日本古来からある固有の品種、ヤマブドウの可能性をワインに求め、日本の食事に合うワイン造りに努めています」と語っている。

画像: 左から、ふくよかな果実味、程よい渋味とさわやかな酸味が調和した『Andosols ヤマソーヴィニヨン』(4250 円)、すっきりとした酸味と豊かな果実味の『Andosols 小公子』(4250円)、収穫年から5 年経ったころが飲みごろ『白山やまぶどうワイン樽 2020年』(8800 円) *価格はすべて税込

左から、ふくよかな果実味、程よい渋味とさわやかな酸味が調和した『Andosols ヤマソーヴィニヨン』(4250
円)、すっきりとした酸味と豊かな果実味の『Andosols 小公子』(4250円)、収穫年から5 年経ったころが飲みごろ『白山やまぶどうワイン樽 2020年』(8800 円) *価格はすべて税込

photographs by Kentaro TAKIOKA , text by Asako NAKATSUMI

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