北海道のワイン産地といえば、これまで後志地方・空知地方に注目が集まっていた。しかし近年、新たなワイナリーやヴィンヤードの開業が相次ぐ道南エリアの進化が目覚ましい。今号から函館・北斗・奥尻エリアの3 回に分けて、道南を巡るワイン旅を紹介する。
今、注目の道南エリア
北海道は、日本ワイン愛好家から最も熱い視線が注がれているワイン産地の一つだ。2000年代から次々と新しいワイナリーが建ち上がり、現在は約60軒と驚くべきスピードでその数を増やしている。
西へ東へと産地が広がる北海道の中でも今、注目したいのが道南エリア。今年50周年を迎えた「は
こだてわいん」のある七飯町には、1869年にドイツ人のR・ガルトネル氏がワイン用ブドウの栽培に取り組んだ記録が残る。150年の歴史を経て、2019年にはブルゴーニュの老舗ドメーヌが、函館市でワイン用ブドウの栽培を開始。行政も産地化に取り組み、道庁主催のワイン産業の人材育成を目的とした「道南ワインアカデミー」も始まった。
道南エリアを巡るワイン旅の紹介は、そんな歴史と発展に裏打ちされた産地、函館・七飯エリアからスタートする。
函館エリアの老舗ワイナリー「はこだてわいん」
自社農園でのブドウ栽培にも注力
今年創業50周年を迎えた「はこだてわいん」。1973年に函館市内で果実酒類製造業「駒ケ岳酒造株式会社」として産声をあげて以来、さまざまな果実を原料としたフルーツワインで地元民から愛されてきた。
84年には本社・工場を七飯町に移転。北海道余市町のワイン用ブドウ栽培農家7軒と契約を結び、欧州系ブドウでのワイン製造にも着手した。現在は、北海道産原料だけを使用した「北海道100シリーズ」を手掛ける一方で、コストパフォーマンスに優れた海外原料のワインもリリースするなど、幅広い商品群が魅力だ。
「年間50万本のワインを生産していますが、品質が安定した、安心安全に飲める商品造りを何よりも大切にしています。そのための検査は3段階にわけて毎日行っています」と説明するのは、製造部次長の西村真氏。85年建設のワイナリーは年期こそ感じられるが、工場見学では臨場感に溢れる現場を見ることができる。
さらに、2017年には本社に程近い休耕地を開拓し、自社農園でのブドウ栽培にも本格参入。現在は、シャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨンなどを実験的に育てている。これからも畑の面積を拡大していく計画で、より地元に根ざした取り組みに注目したい。
Winery Data
北海道亀田郡七飯町字上藤城11番地
☎0138 - 65 - 8115
函館土産にぴったり! ワインやお菓子も充実の「金森赤レンガ倉庫 葡萄館本店」
「はこだてわいん」の直営ショップは2カ所ある。本社に隣接する「葡萄館本店」と、函館のベイエリア「金森赤レンガ倉庫BAYはこだて」内にある「葡萄館西部店」だ。
葡萄館本店は、常時10種類以上の無料試飲ができるほか、ワインを使った「ワインソフトクリーム」が評判。一方、葡萄館西部店は人気の観光スポットに位置し、同社のジュースやワインを使ったお菓子なども数多く扱う。函館土産にぴったりな商品もあるので、ぜひ足を運んでみてほしい。
仏の名門が手掛ける絶景ワイナリー「ド・モンティーユ&北海道」
試飲や軽食が楽しめるレストランも
函館山や函館湾はもちろん青森まで見渡せる丘の上に建設中の巨大な建物がある。ブルゴーニュの名門「ドメーヌ・ド・モンティーユ」の当主エチエンヌ・ド・モンティーユ氏が手掛ける「ド・モンティーユ&北海道」の醸造所だ。2019年に植樹をスタートして4年、この秋ついに自社ブドウでの仕込みがスタートする。
函館市桔梗町の農園の敷地面積は40ヘクタール。このうち29ヘクタールに植樹予定で、現在は13ヘクタールにシャルドネとピノ・ノワールが植えられている。その8割が自社で育成した自根の苗だ。
「18年ヴィンテージから購入したブドウでワインを造ってきましたが、ようやく自社ブドウでの醸造がかないます。25年ころのリリースに合わせて、テイスティングや軽食が楽しめるレストランもオープンする予定です」とゼネラルマネジャーの矢野映(はゆる)氏。ブルゴーニュのトップドメーヌが手掛ける日本ワインを絶景とともに飲める日が待ち遠しい。
Winery Data
北海道函館市桔梗町
info-hokkaido@demontille.com
Gourmet①函館が好きになる! 隠れ家的名店「Etadokah(エタドカ)」
「『Et adokah』を逆さに読んでください」。
店名の由来を尋ねたところ、笑顔で教えてくれたオーナーシェフの近谷佳祐氏。東京やカリフォルニア、スペインで修業を重ね、2016年に出身地七飯町の隣、函館市に自身の店を開いた。2年後にオープンした2店目とともに人気を博したが、コロナ禍でいったん閉店。昨年9月に自宅兼店舗の形で再スタートした。
「 お客さまに函館っていい町だな、と実感してもらえる料理やワインを提供しています」
地元食材の絶品料理と道南ワインがグラスで楽しめる同店は、予約困難だがトライする価値のある店だ。
住所、電話番号は非公開
予約はインスタ(@etadokah)のDMから ※毎月20日に翌月分の予約受付開始
Gourmet②駒ヶ岳を望む湖上クルーズが人気「Table De Rivage(ターブル・ドゥ・リバージュ)」
函館駅から特急で約30分の「大沼公園駅」から徒歩約5分、優雅な湖面と雄大な駒ヶ岳のコントラストが美しい大沼国定公園に着く。2001年の開業以来、公園内にたたずむカフェレストランとして大沼散策を楽しむ観光客に愛されてきた。
「大沼で生まれ育ち、大沼が大好きな父が、この地でのんびりする時間を提供したいとオープンしました」と話すのは2代目の林智子さん。
大沼近郊の旬野菜や海・山の幸をふんだんに使った料理やデザートを提供する。5月〜10月末には約30分間の湖上クルーズも人気だ。ぜひ大沼観光と一緒に訪ねてみては。
住所:北海道亀田郡七飯町大沼町141
TEL: 0138 - 67 - 3003 営業時間: 11 : 00〜16 : 00 不定休
text by Tomoko HONMA
photographs by Tateyuki TABUCHI