近年、新たなワイン産地として注目が集まる北海道南エリア。なかでも日本海に面した西エリアはレトロな街並みと海の幸をはじめとした食の宝庫だ。観光資源が豊富でワイン旅の可能性にも期待が集まる。道南を巡るワイン旅の最終回はそんな奥尻(おくしり)・上ノ国(かみのくに)エリアを紹介する。
「檜山(ひやま)エリア」と呼ばれる道南西部地域は、江差(えさし)町や上ノ国町、乙部(おとべ)町、奥尻町など七つの町で構成される。中世・平安時代には「和人(わじん)」が初めて北海道に定住したといわれ、江戸時代には松前藩を中心に交易で賑わった。江差町の「いにしえ街道」には、北前船の交易で栄えた問屋や商家、蔵などの風格ある歴史的建物群が残る。戊辰戦争との関わりも深く幕末ロマンも感じられる上に、ウニやアワビなど日本海の豊富な海産物や、マリンスポーツも人気の観光エリアだ。
このエリア内には3軒のワイナリーがある。1976年創業の「おとべワイナリー」、日本初の離島のワインを造る「奥尻ワイナリー」、そして2020年に地域創生の一環としてオープンした「上ノ国ワイナリー」だ。それぞれが地域名を冠し、地元密着型でワイン造りをしている。
「上ノ国ワイナリー」
ワーケーションもできるワイナリー。ワインでつながり、地域を盛り上げる
北海道内最南端の駅「木古内(きこない)駅」から20キロ余り。「上ノ国ワイナリー」は、冬はスキーやスノーボード、グリーンシーズンには釣りが楽しめる自然豊かな上ノ国町湯ノ岱(ゆのたい)地区にある。町が中心となり、廃校となった小学校をリノベーションして2020年に開業した。宿泊施設付きのサテライトオフィスを併設する全国でも珍しいワイナリーだ。
「これまでも自治体のイベントやスポーツ施設の管理運営を手掛けてきた経験から、ワイン事業での地域活性化を目指してプロジェクトを立ち上げました」と話すのは、運営を担う「上ノ国開発株式会社」の丸山和之代表取締役。元体育館を活用したワイナリーには、調湿機能付きのタンクや除梗破砕機、瓶詰の機、樽庫などを完備。22年に道南エリアの厚沢部(あっさぶ)町産ブドウを使った『上の泡 セイベルロゼ スパークリング 2021年』を初リリースした。
現在整備を進めている自社畑は約10ヘクタールで、ピノ・ノワール、シャルドネを中心に栽培。23年には、芸能界きってのワイン好きとして知られるGACKT氏とともにピノ・ノワールの植樹を行い、苗木からオリジナルワインを造る「GACKTワインプロジェクト」も展開している。
丸山氏は「上ノ国ワイナリーは、自社のワイン造りだけでなく、ワインに関わる人づくりや近隣農家とコラボした広域での地域づくりなど、開放的なワイナリーを目指していきたいです」と力強く話す。
ワーケーションや長期利用もできる、ホテルタイプの宿泊施設
「上ノ国ワイナリー」の大きな特徴は、宿泊機能付きのサテライトオフィスを併設していること。元小学校の面影を残す会議利用を想定した二つのグループルームのほか、ホテルタイプの八つの個室(18㎡)にはシャワー、トイレ、ベッドを完備。さらに共同で利用できるオープンキッチンや洗濯機もあるため長期の宿泊も可能だ。
Winery Data
北海道檜山郡上ノ国町湯ノ岱243
Accommodations♨
全室源泉かけ流しの温泉付き、地産地消にこだわる癒やしの宿「江差旅庭群来」
日本海に面した港町、江差にある「大人の隠れ家」のような宿「旅庭群来」。石堀に囲まれた空間の中には木造平屋づくりのモダンな建物が。七つある客室のすべてが離れのような配置になっており、室内には源泉かけ流しの温泉付きの内湯を備えている。
旅庭群来は、CO2やごみの出ない「人と環境にやさしい宿」を実現するため、客室の暖房をはじめ館内の床暖、駐車場融雪(ロードヒーティング)は 灯油・ガス・電気を使わず温泉熱を活用。宿から出る生ごみは、直営農場「拓美ファーム」へ運び、野菜栽培の肥料に。ここでは、羊(サフォーク種)、地鶏は手作りの飼料と牧草で育てる循環型エコ飼育を行っている。
地産地消に徹底的にこだわった創作懐石料理も人気だ。食材はすべて、宿より25km以内での収穫・水揚にこだわり、拓美ファームで丹精込めて育てられた羊、地鶏、玉子、野菜、山菜、そして海産物は、宿の目の前の江差港から水揚げされたばかりのものを使用。無農薬、有機栽培、循環型エコ飼育と「群来だからこそ出来る」おもてなしを、食を通じて提供している。
食事に合わせるドリンクも道内産のものを用意。日本酒『金滴』『鬼ころし』『江差追分』『男山』、白ワイン『北海道ワイン ケルナー』『同 バッカス』『奥尻ワイナリー ピノ・グリ』、赤ワイン『北海道ワイン ツヴァイゲルド』『奥尻ワイナリー メルロー』をラインナップしている。旅庭群来はオールインクルーシブのシステムのため、ドリンク料金も宿泊費に含まれているが、別料金にて「農楽蔵」「平川ワイナリー」のワイン、「上川大雪」「郷宝」を注文することも可能だ。
「江差旅庭群来」
Esashi Ryotei Kuki
2名1室利用で
お1人さま4万7450円(消費税・入湯税込)
北海道檜山郡江差町姥神町1-5
☎0139 - 52 - 2020
「奥尻ワイナリー」
独特の個性を持つ「島のワイン」、音楽振動熟成ワイン。
1993年に発生した北海道南西沖地震。津波によって大きな被害が出た奥尻島の産業復興の願いを込めてスタートしたのが、奥尻島でのワイン造りだ。99年に島に自生する山ブドウの苗を植え、2001年には欧州系品種の本格栽培に着手。08年に建設したワイナリーで年間4万本の「島のワイン」を生み出している。
「離島でのワイン用ブドウの栽培はモデルケースがなく、手探りを続けています」と話す常務取締役の菅川仁氏。特に深刻なのは塩害だ。
「ブドウの生育期は東風が吹くので、畑は西海岸に集中しています。しかし西風が春に吹けば芽が枯れるし、夏に吹けば木が休眠してしまうことも。ここ数年、北海道内の気候が変化していることもあり、毎年がチャレンジです」
醸造の計画はその年のブドウの状態を見て決めるという。22年からは音響機器メーカーの「オンキヨー株式会社」とコラボして、醸造中のタンクなどに音楽による振動を加えたワイン「音楽振動熟成ワイン」の醸造を開始した。菅川氏は「23年は島で録音した冬の海の音の振動を利用したワインも仕込みました。毎年ラインナップが変わりますが、奥尻島らしさとして楽しんでもらえたらと願っています」と笑顔を見せた。
Winery Data
北海道奥尻郡奥尻町湯浜300
Sightseeing
奥尻島はウニやアワビ、海鮮グルメの宝庫!「奥尻ブルー」の海でマリンスポーツも
「奥尻ブルー」と呼ばれる美しい海に囲まれた奥尻島へは、函館空港から1日1 往復便の飛行機のほか、江差町からフェリーで訪れることもできる。島を代表する「なべつる岩」をはじめ、日本海の波がつくり出した奇岩が並ぶ海岸風景やマリンスポーツ、ウニやアワビといった豊富な魚介類など魅力たっぷり。
バスやタクシー、レンタカー、レンタサイクルで島内めぐりを楽しんでみては。
text by Tomoko HONMA
photographs by Tateyuki TABUCHI