6月8日、パリの日本人経営レストラン『プティ・ヴェルド』にて、在仏日本人ソムリエおよびワイン業界関係者による2022年産サンテミリオン・グランクリュの試飲会が開催された。当日試飲された15シャトーに対する参加者のコメントを、議論の模様とともにお届けする。

試飲に参加した主要メンバー:左から染谷文平氏、近藤克敏氏、石塚秀哉氏、細川聖香さん、中田雄大氏、吉村充弘氏
CHÂTEAU BADETTE(シャトー・バデット)
参加者の多くが樽の存在感を強く感じたものの、その使い方やバランスのよさ、骨格のしっかりした造りを高く評価した。「万人受けする」「親しみやすい」といったポジティブな反応が目立つ。「凝縮感とほのかな苦味、カリッとしたテクスチャーが後味で美味しく感じられる」と個人的に好む参加者もいた。一方、樽の影響を過度に感じて点数を厳しくつける声もあったが、全体としてはバランスのよさが評価のポイントとなった。
生産量 | 2万5000本 |
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テロワール | 粘土石灰質、フロンサック地方の粘土質、砂利質土壌 |
栽培方法 | 土壌の土起こし作業、除草剤不使用、レゾネ農法 |
品種構成 | メルロ80%、カベルネ・フラン15%、プティ・ヴェルド5% |
収穫率 | 45hl/ha |
醸造、熟成方法 | 500リットル樽とステンレスタンクでの区画別醸造、新樽75%、1年樽25% |
追加技術情報 | 45日間マセラシオン、醸造前低温浸漬 |
CLOS BADON THUNEVIN(クロ・バドン・テュヌヴァン)
テュヌヴァン氏が手掛けるこのシャトーについて、果実味や甘み、丸みのあるニュアンスが印象的だった。樽の使い方には賛否両論あり「酸がきつめ」と感じる参加者がいる一方で、料理との相性の良さやエレガントなスタイル、熟した果実のニュアンスを褒める声も上がった。「飲みづらい」と率直に表現する参加者もいたが、その個性的なキャラクターと熟成後のポテンシャルに期待を寄せる意見も聞かれた。
栽培面積 | 5.8ha |
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テロワール | 砂利とシリカ |
栽培方法 | 手摘み収穫 |
品種構成 | メルロ65%、カベルネ・フラン35% |
収穫率 | 3万5000本/5.8ha |
醸造、熟成方法 | 18~24カ月、新樽100% |
追加技術情報 | ISO 9001・ISO 14001認証、pH3.8、アルコール15% Michel Rolland・julien Viaud(コンサルタント)、28日間マセラシオン |
CHÂTEAU CÔTE DE BALEAU(シャトー・コート・ド・バロー)
「めちゃくちゃモッチモチ」という印象的なテクスチャーが複数の参加者から指摘された。この個性ゆえか「ボルドーらしくない」「アペラシオンらしくない」と伝統的なサンテミリオン像とは一線を画すという厳しい評価も出た。しかし軽快で飲みやすいスタイルとして受け止める向きもあり、熟成による変化への関心や個人的な好みを表明する参加者もおり、評価は二分された。
栽培面積 | 15ha |
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テロワール | 粘土石灰質 |
栽培方法 | 植樹密度8,000本/ha |
品種構成 | メルロ90%、カベルネ・フラン10% |
収穫率 | 42hl/ha |
醸造、熟成方法 | 新樽20%、1年樽20%、2年樽20%、タンク40%(14カ月熟成) |
追加技術情報 | Michel Rolland・julien Viaud(コンサルタント)、28日間マセラシオン |
CHÂTEAU CROIX DE LABRIE(シャトー・クロワ・ド・ラブリー)
「非常にボリュームがあり、最初から力強く、引きつけられるような濃厚な感触」として評価される一方、樽の影響の強さが議論を呼んだ。「樽香」「酸っぱい」といった直接的な表現も飛び出したが、酸味やタンニンの存在感がありつつもフレッシュで味わい深いと捉える参加者もいた。個性的な造りが特徴的で、樽の強さや酸のキャラクターについて白熱した議論が展開された。
栽培面積 | 5.16ha |
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テロワール | 粘土石灰質(アステリア)、砂利と青粘土 |
栽培方法 | 有機農法、ビオディナミ、アグロフォレストリー |
品種構成 | メルロ84%、カベルネ・ソーヴィニヨン10%、カベルネ・フラン6% |
収穫率 | 35hl/ha |
醸造、熟成方法 | 樽80%(新樽70%、1年樽30%)、フードル20% |
追加技術情報 | 60年以上の古樹、100年のカベルネ・ソーヴィニヨン |
CHÂTEAU DE FERRAND(シャトー・ド・フェラン)
サンテミリオンの典型的なスタイルとは一線を画する個性が注目を集めた。野性的な香りのニュアンスから「シラーを思わせる特徴」を感じ取る参加者や「ブラインドで飲むとすごく白ワインに似ている」という驚きの感想も出た。中盤から綺麗に伸びていく印象も共有され、メルロ単一ではなくシラーとブレンドされているのではないかと判断してしまうほどユニークなキャラクターだった。品質の高さを示す「持ち帰りたくなる」というコメントも印象的だった。
栽培面積 | -- |
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テロワール | 石灰質 |
栽培方法 | 記載なし |
品種構成 | メルロ66%、カベルネ・フラン34% |
収穫率 | 44hl/ha |
醸造、熟成方法 | 記載なし |
追加技術情報 | 300年のワイン生産の歴史、BICアートコレクション、ボルドーオペラアカデミー支援 |
CHÂTEAU DE PRESSAC(シャトー・ド・プレサック)
酸の存在感があり、個人的な好みに合うと評価する参加者もいた。若々しいヴィンテージらしい溌剌としたキャラクターが感じられる。ただし試飲時点ではまだ閉じている印象で、表現が少なくフルーティさと酸味が際立ち、全体像を捉えにくい一面もある。現段階ではワインの持つポテンシャルを十分に引き出せていない、あるいは魅力に欠ける段階かもしれないという慎重な見方も示された。
栽培面積 | 36.28ha |
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テロワール | -- |
栽培方法 | レゾネ栽培、混乱交尾法、土壌作業・草生栽培 |
品種構成 | メルロ70%、カベルネ・フラン17%、カベルネ・ソーヴィニヨン10% その他3%(6品種のブレンド) |
生産量 | 1170hl/ha(10万5000本) |
醸造、熟成方法 | 16~18カ月:樽95%、アンフォラ5% |
追加技術情報 | Château Tour de Pressac(4万5000本) |
CHÂTEAU MONTLISSE(シャトー・モンリス)
美味しくバランスが良いワインとして高い評価を獲得した。凝縮感はそれほど強くないものの、タンニンがしっかりと感じられる。最初は重さを感じるかもしれないが、時間経過とともに甘みが落ち着き、タンニンが主張するようになってバランスの良さが現れてくる。メルロ中心のブレンドながら「なんとなく焙じたようなニュアンスも感じられる」との指摘もあった。
栽培面積 | 7ha |
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テロワール | 粘土石灰質土壌、硬い石灰質上層土 |
栽培方法 | 手摘み、最適成熟度での収穫 |
品種構成 | メルロ83%、カベルネ17% |
収穫率 | 30hl/ha |
醸造、熟成方法 | 新樽100%(フランス産オーク、75% 1年)?、12~18カ月 |
追加技術情報 | 南西向き斜面の円形階段状の畑 |
CHÂTEAU FONROQUE(シャトー・フォンロック)
個人的な好みとして高く評価する参加者が多数を占めた。凝縮感はそれほどないが、タンニンがしっかりしており、ブラインドで飲むとメルロ単一品種のように感じるかもしれない。飲みやすくバランスが良いと複数の参加者が評価し、特にアルコールや甘み、果実味以外の要素が豊かに感じられる点が好まれた。熟度が高く「南ローヌを思わせるような芳醇さ」も指摘されたほか、ビオディナミ栽培や品種(メルロ95%、カベルネ・フラン5%)についても言及があった。
栽培面積 | 16.58ha |
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テロワール | 石灰台地と粘土石灰質斜面 |
栽培方法 | 有機・ビオディナミワイン認証 |
品種構成 | メルロ95%、カベルネ・フラン5% |
収穫率 | 45hl/ha |
醸造、熟成方法 | 新樽34%、1年以上樽10%、その他容器56% |
追加技術情報 | FR-BIO-01 Agriculture France、ECOCERT認証 |

レストラン『プティ・ヴェルド』で行われた試飲の様子
CHÂTEAU TOUR BALADOZ(シャトー・トゥール・バラド)
タンニンが非常に強く、口に含んだ瞬間にえぐみを感じるという厳しい評価が大勢を占めた。「飲むのが難しい」「レストランで気軽に楽しめるタイプではない」という率直な批評が相次いだ。固くドライな印象で、アタックが強く、樽の強い影響で飲み手に拒否反応を起こさせる可能性も指摘された。今回試飲した2022年ヴィンテージは全体的に難しい印象を与えたようだ。
栽培面積 | 7.8ha |
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テロワール | 石灰質母岩上の粘土石灰質土壌。サンテミリオン台地70%、丘陵30% |
栽培方法 | 伝統的かつ環境保護的な栽培方法(ISO14001・HVE レベル3認証) |
品種構成 | メルロ80%、カベルネ・フラン10%、カベルネ・ソーヴィニヨン5%、その他5% |
収穫率 | 40hl/ha |
醸造、熟成方法 | 10の異なる樽職人からのフランス産オーク樽 |
追加技術情報 | サンテミリオンの南東3km |
CHÂTEAU LA MARZELLE(シャトー・ラ・マルゼル)
よく飲んでいるシャトーとして個人的な愛着を示す参加者がいた。凝縮感があり、醸造由来のスパイシーさやタンニンの香りがバランス良く感じられる高品質なワインと評価された。テクスチャーも滑らかで、酸やタンニンもしっかりしており、熟成ポテンシャルも感じられる。旨味やソースのようなニュアンスがあることから、和食や旨味のある料理とのペアリングが提案された。ビオディナミ栽培であることにも触れられた。
栽培面積 | 17ha(一続きの区画 ) |
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テロワール | 古い砂地、深い砂利、青粘土 |
栽培方法 | ビオディナミ栽培 |
品種構成 | メルロ80%、カベルネ・フラン15%、カベルネ・ソーヴィニヨン5% |
収穫率 | 記載なし |
醸造、熟成方法 | フランス産オーク新樽と陶器の甕 |
追加技術情報 | 4万5000本生産、ボルドー式剪定 |
CHÂTEAU LA SERRE(シャトー・ラ・セール)
謎めいたワインとして、参加者の間で意見が分かれた。非常にシンプルで、サンテミリオンらしい複雑さに欠けるという厳しい見方がある一方、凝縮感やフレッシュさ、タンニンの質、バランスのよさを評価する声もあった。クラシックなタバコや枯葉の香り、スパイシーさも感じられるものの「メリハリがもう少し欲しい」という率直な感想も述べられた。
栽培面積 | 7ha |
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テロワール | 石灰台地 |
栽培方法 | レゾネ農法、HVE3認証 |
品種構成 | メルロ75%、カベルネ・フラン25% |
生産量 | 2万5000本 |
醸造、熟成方法 | 無硫黄醸造、新樽50%、1年樽50% |
追加技術情報 | Thomas Duclos - Oenoteam(醸造家) |
CHÂTEAU LANIOTE(シャトー・ラニオット)
クラシックなタバコや枯葉、スパイスのニュアンスによいバランスを感じるとの評価。リッチでボディが強いスタイルで、醸造学校で学んだ作り手が樽をしっかり効かせて作っているという印象を受けた。酸味が強く飲みにくいという批判的な見方も複数出たが「好みではないが、品質としては悪くない」という冷静な評価もあった。
栽培面積 | 5ha |
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テロワール | アステリア石灰質の地下土壌上の粘土石灰質 |
栽培方法 | HVE認証 |
品種構成 | メルロ80%、カベルネ・フラン15%、カベルネ・ソーヴィニヨン5% |
収穫率 | 40hl/ha |
醸造、熟成方法 | 12~16カ月(新樽40%、1年以上樽60%) |
追加技術情報 | 1821年創設HVE認証 |
CHÂTEAU VILLE MAURINE(シャトー・ヴィルモリーヌ)
過去のイメージを覆す良い驚きがあったシャトーとして注目を集めた。安心感があり美味しく飲めるワインで、バランスが良く、特にタンニンと苦味のバランスが秀逸だった。コーヒーのような香りもあり、全体のバランスの良さが高く評価された。「10年後にも期待できる、生き生きとしたワイン」という将来性への期待も表明された。
栽培面積 | 6ha(生産面積) |
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テロワール | アステリア石灰上の粘土石灰質 |
栽培方法 | HVE3認証 |
品種構成 | メルロー85%、カベルネ・フラン15% |
収穫率 | 38hl/ha |
醸造、熟成方法 | 醸造68hlステンレスタンク。熟成16カ月。フランス産オーク新樽70%、小容量の樽、500L樽、アンフォラ2基 |
追加技術情報 | 中世サンテミリオン市に隣接 |
CHÂTEAU ROLVALENTIN(シャトー・ロル・ヴァランタン)
個人的に好きなシャトーとして、果実味の熟度とバランスの良さが評価された。タンニンは強いものの、それが綺麗に感じられる点が好まれた。ビオディナミ栽培であることや、以前からよく飲んでいるシャトーという背景も共有された。一方で「もう少し期待していたが、少し物足りない」という正直な感想も聞かれた。
栽培面積 | 7.14ha |
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テロワール | 粘土上の古い砂地(1.80ha)、丘陵・台地の粘土石灰質(5.20ha) |
栽培方法 | 化学除草剤なしの伝統的な耕起、HVE3認証 |
品種構成 | メルロ78%、カベルネ・フラン15%、マルベック7% |
収穫率 | -- |
醸造、熟成方法 | 熟成方法 90%のワインを400L樽で14~16ヶ月熟成、10%を卵形タンク |
追加技術情報 | Stéphane Derenoncourt(コンサルタント) |
CHÂTEAU YON FIGEAC(シャトー・ヨン・フィジャック)
「今までに飲んだ他のワインと比べて何か決定的に足りない」「がっかりした」という厳しい評価が複数の参加者から出た。あまり繊細でない個性的な香りがあり、飲みにくいと感じる人が多かった。しかし、あるソムリエからは「最初、樽がきつくあんまり好きな香りじゃなかったんですけど、時間と共にフルーツの香りとか、後ちょっとこうハーブの香りとかがしっかり広がってきて好きだなって思えてきました」という興味深い変化への言及もあった。
栽培面積 | 24ha |
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テロワール | 粘土砂質 |
栽培方法 | 栽培方法 ISO 14001、HVE 3認証 |
品種構成 | メルロ86%、カベルネ・フラン6%、プティ・ヴェルド8% |
収穫率 | 34hl/ha |
醸造、熟成方法 | 新樽と1年以上の樽 |
追加技術情報 | M. Christophe Olivier(コンサルタント) |
2022年ヴィンテージ全体の印象と結論
今回のサンテミリオン・グランクリュ2022年ヴィンテージ試飲会を通じて、参加した在仏の日本人専門家たちは、それぞれのシャトーが持つ個性と、2022年というヴィンテージがワインに与える影響について多角的な視点から議論を重ねた。
力強いスタイルからエレガントなスタイルまで、多様な個性が感じられると同時に、一部のワインにはまだ閉じている状態や、バランスに課題があるという指摘も見られた。特に印象的だったのは、樽の使い方や酸の質、そして伝統的なボルドーらしさからの逸脱ともとれる個性的な造りについて、さまざまな視点から活発な意見交換が行われたことだった。
評価上位5シャトー
今回のテイスティング評価の上位5シャトーは以下の通り:
- CHÂTEAU FONROQUE(シャトー・フォンロック)
- CHÂTEAU DE FERRAND(シャトー・ド・フェラン)
- CHÂTEAU LA MARZELLE(シャトー・ラ・マルゼル)
- CHÂTEAU VILLEMAURINE(シャトー・ヴィルモリーヌ)
- CHÂTEAU DE PRESSAC(シャトー・ド・プレサック)
参加したソムリエやワイン業界関係者それぞれが持つ経験や知識、そして個人的な好みが反映されるため、同じワインに対する評価も実に様々だった。万人受けするバランスの取れたスタイルを評価する声がある一方で、個性的なキャラクターや今後の熟成による変化に期待を寄せる参加者もいた。
最後に、今回の試飲会の開催にご協力いただいたサンテミリオン・グランクリュ組合、そして会場を提供してくださったレストラン『プティ・ヴェルド』に心より感謝申し上げたい。