一年に一度のお楽しみ、ボジョレー・ヌーヴォー。11月19日に解禁されたばかりの8本を、「エスキス」総支配人の若林英司氏がテイスティングしました。2020年ヴィンテージは、私たちにどんな景色を見せてくれるのでしょうか?
新型コロナウイルスが猛威を振るい、世界中の景色がガラリと変わってしまった今年。若林氏は語る。
「栽培も収穫も、そして醸造も。世界のほかの産地同様、ボジョレーの造り手は感染予防の細心の注意をしながらの作業を強いられた。そういう意味では困難な年でしたが、天候には恵まれ、ブドウは完熟した実を結びました。さまざまな意味で、2020年のヌーヴォーは『忘れられないヴィンテージ』になることでしょう」
「ボジョレーワイン委員会」も「究極のミレジム」と表す。世界が経験したことのない苦境に直面した2020年ヴィンテージ。大手から小さなドメーヌまで、個性豊かな8本が出そろった。
テイスティングの途中、若林氏の口からは何度も感嘆の声がもれた。
「これ、本当にヌーヴォー?」
「上手に造ってるなぁ……」
「ヌーヴォーってこんなに美味しかったっけ⁉︎(笑)」
8本、すべてをテイスティングして、若林氏はこう語った。
「とにかく果実がとてもよく熟している。それがすべての造り手に共通していることです。『究極のミレジム』とも言われる、素晴らしいヴィンテージを生み出している理由でしょう。いつもは果実味や酸味など、若干何か足りない要素を感じることがあるのに、今年はそれがまったくない。どのワインも非常にバランスよく仕上がっています」
自粛が叫ばれる中、カウントダウンパーティーなどは軒並み中止に。でも、究極のミレジムを体験しないなんてもったいない。そこでお勧めは「おうちでヌーヴォー」!
「魚も肉も和も洋も一緒に並ぶ、そんな家庭の食卓に、シンプルなボジョレー・ヌーヴォーは実は最適。手作りでもいいし、スーパーやデパ地下のお惣菜、コンビニでも買える缶詰おつまみなどをあれこれ並べて、ご家族でワイワイ楽しんでみては?」と若林氏。
魅力を引き出すコツは、しっかりと冷やすこと。8~10度と白ワインと同じ温度帯が理想だ。
「フレッシュ、フルーティーというボジョレー・ヌーヴォーの魅力は存分に表現しつつ、造り手の信念と努力で、シンプルで軽快なものから、複雑でゴージャスなものまで、非常に個性豊かだと痛感しました。カジュアルなタイプからスタートし、日にちをかけて次々と違うタイプを開けてみる。そんなこともおうちヌーヴォーなら気軽に楽しめるはずです」と若林氏は笑顔を見せた。
忘れられない年の忘れられないヌーヴォー。疲れたココロとカラダを癒してくれるに違いない。
編集部がセレクションしたボジョレー・ヌーヴォーはこの8本!
酸味際立つきれいめヌーヴォー
たっぷりの小粒のベリーの熟した香りが溢れ、その果実香を酸味がしっかりと支えている。口に含むと喉越しが良く、味わいも香り同様フレッシュな果実味と酸味が広がる。このきれいな酸味を楽しむために、しっかりと冷やして。スッキリとしたテイストには魚介類が好相性。トマトなど酸味がある野菜を使った一品とも。
生産者:ピス・ドリュー
ワイナリー名は、かつてボジョレー地方の栽培者たちが、ブドウが完熟して果汁がたっぷり出てくる様を「ピス・ドリューする」と表現していた事に由来する。1955年に初めてヌーボーを発売したときからこの名を採用している。
バランス秀逸、まるーいヌーヴォー
よく熟したブドウならではのふくらみとボリューム感、リキュールのような凝縮感も香りから感じられる。とてもスムーズな口当たりで、コクと旨味があり、酸味は穏やか。タンニはやさしい。きれいな丸い形を連想させる、バランスに優れたヌーヴォー。ワインの柔らかさに、みりんや醤油を使ったやさしい味わいの肉じゃがは相性抜群。カツオの刺身など赤身の魚も◎
生産者:アンリ・フェッシ
1888年創業。10のクリュ・ボジョレーのうち九つの村に自社畑を所有し、「クリュ・ボジョレーのスペシャリスト」と称される。自社畑の半分以上が樹齢50年から75年の古木で、手摘み収穫と伝統的な醸造方法にこだわり、高品質なボジョレー・ワインを生み出している。
帝王が贈る、軽快&スマートヌーヴォー
例年よりも明るく濃い色調。熟した果実やキイチゴの香り、奥にはスパイシーさも感じられる。ミントのような香りもあり、心地のいい清涼感を与えている。味わいは果実味がフレッシュで、酸味がエレガント。軽快かつスマートなタイプ。ワインの清涼感に合わせ、シソを添えた料理や、クレソン、ルッコラなどグリーンの香りがさわやかなサラダと。
生産者:ジョルジュ デュブッフ社
1964年設立。それまで地元で飲まれていた新酒、ボジョレー・ヌーヴォーの魅力と楽しみ方を世界に広めたジョルジュ・デュブッフ氏は、「ボジョレーの帝王」として、その功績と醸造家としての才能が讃えられている。
奥行きを感じさせるボリューミーヌーヴォー
フレッシュな中に、土のミネラル、わずかに生の肉のようなワイルドな香りが感じられる。口に含むと非常にふくらみがあり、酸味が穏やか。最後に口の中を引き締めるタンニンも。ボリューム感とコク、複雑で奥行きがあり、よく熟したボジョレーのような表情を見せる。これは「肉ボジョレー」。生ハムやパテなどの冷菜はもちろん、砂肝の焼き鳥、モツ煮などお肉を使ったワイルド感のあるおつまみと。
生産者:アルベール・ビショー
1831年創立のブルゴーニュの名門ネゴシアン。当主アルベリック・ビショー氏の「ブドウ(その土地の味)」「人(ワイン造りに関わる人々)」「自然環境(環境の永続性)」を尊重したワイン造りの信念に基づき、ブルゴーニュワインのエレガンスを最大限表現することに努める。
スケール感あるゴージャスヌーヴォー
吸い込まれるような深く、美しいルビー色。ブドウは熟してはいるものの、果実香が前面にくるのではなく後ろに秘めていて、テロワールも感じさせる。滑らかなアタック、豊かな旨味、きれいに溶け込んだ酸とグリップのある緻密なタンニンが余韻まで続く。良質のブルゴーニュのようなスケール感、ゴージャスさを感じさせるワンランク上のヌーヴォー。いい地鶏のモモ肉のロースト、旨味に合わせ昆布とカツオだしの筑前煮と合わせても。
生産者:ルイ・ジャド
1859年創設。「ブルゴーニュの巨匠」と称されるルイ・ジャドは、ネゴシアンとしてブルゴーニュワインの取引に関わる一方、総面積210ヘクタールの自社畑を保有する大ドメーヌでもある。縁取りがされたイエローのラベルに描かれているのは、酒神バッカス。
ボジョレーの魅力が詰まった自然派ヌーヴォー
『ボージョレ・ヴィラージュ・ヌーヴォー 2020年』
よく熟した小粒の果実の香りが豊かで、ビオディナミならではのピュアさと透明感、生命感が伝わってくる。フルーティーで喉越しが良く、タンニンが控えめで、酸味は穏やか……と、ガメイの魅力、ボジョレーワインの魅力がすべて詰まったトップクラスのヌーヴォー。ミネラルも豊富で魚介類とも好相性。カキと長ネギを鷹の爪で炒めた物、カキフライなど、ペアリングに悩むカキ料理とも楽しめる1本。
生産者:ドメーヌ・ド・ブイロン
シャンボール・ミュジニーの「コント・ジョルジュ・ド・ヴォギュエ」で栽培、醸造を担当していたティエリー・アレル氏が、故郷のボージョレで、有機栽培にこだわり、素晴らしいワインを生み出している。
清楚でしっとり、エレガンスヌーヴォー
熟して凝縮した果実香に実山椒を思わせる清涼感が添えられ、ヌーヴォーとは思えない美しく、エレガントな香りが広がる。口に含むとたっぷりとしながらも密度の細かい果実味が豊かで、きれいな酸味がエレガント。清楚でしっとりとした女性的な魅力溢れるヌーヴォー。サーモン、マグロなどの刺身の繊細な味わいにも寄り添う。レンコンなど土の香りを楽しむ煮物にも合わせてみたいヌーヴォー。
生産者:メゾン・ジョゼフ・ドルーアン
1880年の創業以来、家族経営にこだわり、テロワールへの信念を守り、「エレガンスとバランス」を追求し続けている。環境への配慮、そして純粋なテロワールの表現のため、早くから有機農法を採り入れ、2007年には全自社畑をビオディナミ農法に切り替えた。
ポップでカジュアル、フレンドリーヌーヴォー
フルーツが前面に感じられるポップで華やかな香り。しっかりとした果実味やヴィラージュならではの厚みがありながら、酸味と渋みは優しく、飲み手にも料理にもフレンドリーなヌーヴォー。後味にコショウを感じさせるスパイシーさがあるので、焼いた肉に荒削りのブラックペッパーをふりかけた一皿と。タレで楽しむレバーやつくねの焼き鳥とも。
生産者:JPマルシャン
1813年モレ・サン・ドニに創設され、現在ジュブレ・シャンベルタンに本拠を置くドメーヌ兼ネゴシアン。自家畑をジュブレ・シャンベルタン、モレ・サン・ドニ、シャンボル・ミュジニーなどにもち、5代目オーナーで醸造家のジャン・フィリップ・マルシャン氏が質の高いブルゴーニュ・ワインを生産している。
text by Asako NAKATSUMI