近年ワイナリーやヴィンヤードの開業が相次ぐ北海道の道南エリア。なかでも北斗市は、行政と民間が一体となって地元産ワインによる活性化に力を入れており、この秋、新たに二つのワイナリーが完成した大注目エリアだ。道南を巡るワイン旅の2 回目は北斗市を紹介する。

北斗市は、旧上磯町と旧大野町が合併して誕生。農業と漁業の一次産業が主な産業で、特に大野平野は1685年に道内初の稲作が行われたという「北海道水田発祥の地」として知られている。

そんな大野平野の西端に位置する文月地区に今秋、ワイナリーが2軒完成した。道南ワインのキーマン「農楽蔵(のらくら)」と、新進気鋭の「ドゥエ・プンティ」だ。農楽蔵は函館市元町にあったワイナリーを移転、ドゥエ・プンティは「上ノ国ワイナリー」での委託醸造からワイナリー建設に舵を切った。今後も文月地区や隣接する向野地区では、ワインテイスターの大越基裕氏が手掛ける農泊施設や、札幌の人気フレンチレストランが2021年に開園した「トロッコ」のワイナリーの建設も予定している。

ワインを中心とした新たな地域の誕生に期待が集まる北斗市は、ますます目が離せないエリアなのだ。

「グランポレール 北斗ヴィンヤード」
創業の地・北海道でのさらなる挑戦。2024年に本格リリースをスタート!

画像: 10月下旬、南東向きの日当たりの良い斜面の畑ではメルロの収穫をしていた。斜度10~17パーセントの畑にさらに暗きょを設置し水はけを確保。健全で高品質なブドウを栽培している

10月下旬、南東向きの日当たりの良い斜面の畑ではメルロの収穫をしていた。斜度10~17パーセントの畑にさらに暗きょを設置し水はけを確保。健全で高品質なブドウを栽培している

画像1: 「グランポレール 北斗ヴィンヤード」 創業の地・北海道でのさらなる挑戦。2024年に本格リリースをスタート!
画像2: 「グランポレール 北斗ヴィンヤード」 創業の地・北海道でのさらなる挑戦。2024年に本格リリースをスタート!

北斗市の南端、津軽海峡の向こうに本州・青森まで見渡せる丘に広がる「グランポレール北斗ヴィンヤード」。酪農製品などで知られるトラピスト修道院所有の元牧草地を、2018年に整地・土壌改良して開園した。19年からシャルドネ、メルロの苗木の植え付けを皮切りに、20年にはシラー、ソーヴィニヨン・ブラン、21年にはピノ・ノワール、ゲヴュルツトラミネール、甲州を植栽し、現在約9ヘクタールで7品種を育てている。「長野古里ぶどう園」「安曇野池田ヴィンヤード」に続く3カ所目の自社畑で、サッポロビール創業の地である北海道においては、1984年から契約農家とともにワイン用ブドウの栽培に着手した余市町に続く産地だ。

画像: 野田氏は日本全国のグランポレールの原料ブドウを見てきた栽培のプロフェッショナル。「安曇野池田ヴィンヤード」の開設も担当した

野田氏は日本全国のグランポレールの原料ブドウを見てきた栽培のプロフェッショナル。「安曇野池田ヴィンヤード」の開設も担当した

チーフヴィンヤードマネジャーの野田雅章氏は「本州での経験に加えて、余市町でのノウハウを生かした品種の選定や栽培方法を組み立てているところです」と話す。北斗市は比較的温暖で、凍害のリスクが少ないためブドウの成熟期間が長く確保でき、これまで道内では難しいとされてきた熟期の遅い品種にもチャレンジしてい。

「北海道らしいキレのある酸味に加え、樹上での完熟を目指して栽培できるため糖度が高く、今までにない豊かな香りのブドウが収穫できています」と胸を張る。

画像: 500本の数量限定でリリースした『グランポレール 北斗シャルドネ〈初収穫〉 2022年』

500本の数量限定でリリースした『グランポレール 北斗シャルドネ〈初収穫〉 2022年』

今年6月には待望のファーストヴィンテージを数量限定で発売。2024年には本格リリースも予定しており、これからの北海道北斗ヴィンヤードのチャレンジに期待が集まる。

Winery Data
北海道北斗市三ツ石339 - 1

≪観光スポット≫道南土産の大定番、発酵バターも作る「トラピスト修道院」

画像: 赤レンガのゴシック建築の修道院内。内部見学は男子のみ可能

赤レンガのゴシック建築の修道院内。内部見学は男子のみ可能

明治29(1896)年にフランスから訪れた9人の修道士が創設した日本初のカトリック男子修道院。正式名称は「厳律シトー会灯台の聖母大修道院」だが、「トラピスト修道院」の名で愛されている。修道院に続く四季折々に美しい姿を見せるスギとポプラの並木道や散策道、修道院裏の丸山にある「ルルドの洞窟」など、いずれも道南屈指の観光スポットだ。売店では、敷地内で作っている発酵バターやバター飴、バタークッキーなどを購入できる。

営業時間:4月1日~10月15日は9 : 00~17 : 00 、10月16日~3月31日は8 : 30〜16 : 30
住所:北海道北斗市三ツ石392 TEL:0138 - 75 - 2108

「ドゥエ プンティ ヴィンヤーズ」
気鋭の栽培&醸造家のワイナリーが完成。しなやかな感性でブドウと向き合う

画像: 函館山を望む穏やかな南南西の畑は、大野平野の西側に位置する。粘土質の下層土の上に団粒構造で水はけの良い黒ボク土の表土がある個性的な土壌

函館山を望む穏やかな南南西の畑は、大野平野の西側に位置する。粘土質の下層土の上に団粒構造で水はけの良い黒ボク土の表土がある個性的な土壌

今年9月、北斗市文月に新たなワイナリーが完成した。ワインのインポーター勤務を経てニュージーランドやイタリアで栽培や醸造に従事、ロンドンではソムリエとして働いた経験も持つ井坂真介氏が、満を持して立ち上げた「ドゥエ プンティ ヴィンヤーズ」だ。

画像: イタリアで醸造経験を積んだ井坂氏。イタリア語でDuePuntiとは2点の意。「品質最優先」と「広い視野で」の2点を目指す

イタリアで醸造経験を積んだ井坂氏。イタリア語でDuePuntiとは2点の意。「品質最優先」と「広い視野で」の2点を目指す

2020年に開墾を始めた南南西向きの2ヘクタール弱の畑では、ピノ・ノワール、シャルドネ、ツヴァイゲルトなど7品種約6千本を栽培。なかでも井坂氏が力を入れるのがピノ・ブランだ。

「オーストリアで素晴らしいピノ・ブランの生産者に出会って以来、好きな品種です。耐寒性があり、北斗市では10月末まで収穫が引っ張れるので、北海道の気候にも合っています」とにこやかに話す。

醸造所では、自社畑で栽培したブドウのほか、余市町などから買い付けたブドウで仕込みを行う。発酵はステンレスタンクとプラスチックタンクの両方を使い分け、「野性酵母だけでなく、ブドウの状態を見ながら酵母を添加することもあります」と話す。確かな経験としなやかな感性でブドウに向き合う井坂氏。自社畑のブドウだけで仕込んだワインのリリースも楽しみだ。

画像: 畑のすぐ隣に建つ醸造所は2023年9月30日に竣工式を開いた。地場産材の道南スギを活用した木造平屋建てで年間約20tの生産力がある

畑のすぐ隣に建つ醸造所は2023年9月30日に竣工式を開いた。地場産材の道南スギを活用した木造平屋建てで年間約20tの生産力がある

画像: 左から『ノスタルジア フリッツァンテ 2022 』(4180円)、『ノスタルジア ビアンカ 2022 』 4950円)、『ノスタルジア 2021 』(4950円)。いずれも井坂氏が3年間を過ごした余市町のブドウで醸造した。独特な世界観のラベル画は井坂氏の学生時代の友人の作品だ ※価格はすべて税込

左から『ノスタルジア フリッツァンテ 2022 』(4180円)、『ノスタルジア ビアンカ 2022 』
4950円)、『ノスタルジア 2021 』(4950円)。いずれも井坂氏が3年間を過ごした余市町のブドウで醸造した。独特な世界観のラベル画は井坂氏の学生時代の友人の作品だ ※価格はすべて税込

Winery Data
北海道北斗市文月189 - 1

函館名物「イカ料理」

函館市の魚に指定されている「イカ」。朝、津軽海峡で獲れたばかりの「朝イカ」を、その日のうちに味わえるのは道南ならでは。6~12月はスルメイカ、1~5月はヤリイカとイカの種類は変わるが、どちらも新鮮な刺し身がお勧めだ。

画像: 函館名物「イカ料理」
画像: 進化する道南エリアのワイン旅<vo2.北斗エリア>

函館の名物のイカ料理。透明でコリッコリの活イカの刺し身は白ワインにも合うよ♬

≪LiquorStore≫北海道のワインやチーズを「体験」する「酒舗 稲村屋」

画像: 北海道の酒や食材などのアイテムがところ狭しと並んだ店内の散策は、まるで宝探しのようで楽しい

北海道の酒や食材などのアイテムがところ狭しと並んだ店内の散策は、まるで宝探しのようで楽しい

店舗の中央に16 本のワインが並ぶサーバーが鎮座する「NORTH SAKE & WINE 酒舗 稲村屋」。
「北海道新幹線の新函館北斗駅隣のビル内という立地を生かし、“体験”を売る酒屋として2017 年にオープンしました」と話すのは、道南エリアの福島町で創業90 年の酒販店3 代目・稲村博大氏だ。“北海道産”をコンセプトに、ワイン、日本酒、地ビール、クラフトジンなどの酒類のほか、道内各地のナチュラルチーズを多数扱っている。

画像1: ≪LiquorStore≫北海道のワインやチーズを「体験」する「酒舗 稲村屋」
画像2: ≪LiquorStore≫北海道のワインやチーズを「体験」する「酒舗 稲村屋」

1 杯(30ml)100 円から道産ワインが試飲でき、地酒バーのカウンターではおつまみ付の飲み比べセットなども楽しめる。稲村氏は「北海道はこの5 年でワイナリーが倍増し、道南エリアには半世紀なかった日本酒の蔵が二つできました」と胸を張る。希少な酒や北海道限定商品もそろえる同店を訪れれば、新しい道南が発見できるだろう。

画像: 「進化し続けている道南は、夢のある地域」と話す稲村博大氏

「進化し続けている道南は、夢のある地域」と話す稲村博大氏

住所:北海道北斗市市渡1 - 1 - 7 観光交流センター別館 内
TEL: 0138 - 83 - 8565 
営業時間:9 : 00~20 : 00 年中無休

≪Gourmet≫ 道南の「風土」を五感で表現「climat」

画像: 関川氏が「自分が口にしたものだけ」で構成する料理とワイン。その確かな味わいに道外から通う客も多い

関川氏が「自分が口にしたものだけ」で構成する料理とワイン。その確かな味わいに道外から通う客も多い

画像1: ≪Gourmet≫ 道南の「風土」を五感で表現「climat」

「自分の料理って何だろう? いや、まずは自分が心地良い暮らしをしよう––と考えた結果、たどり着いたのが地元道南でした」

画像: JR東日本の豪華寝台列車「トランスイート四季島」の料理人も務める関川シェフ

JR東日本の豪華寝台列車「トランスイート四季島」の料理人も務める関川シェフ

柔らかな笑みを浮かべて話す関川裕哉シェフは、北斗市の隣・七飯町の出身。東京の料理専門学校やフランスで学び、札幌、函館で修業した。道南の海・山・丘がはぐくむ上質な食材を使い、生産者の思いや風景までも表現する関川氏の料理は、フレンチをベースとしながらも独創的で、ひと皿から道南の風が吹いてくるよう。

「地元の年配者から料理法を聞いたり、郷土料理に発想を得たり。料理から派生し、同じ志を持つ仲間が数多くいる道南の“当たり前”を料理で伝えたいです」と真摯に話す関川氏。当たり前で心地が良い。けれども感動と、店名の通りに「クリマ(風土)」が感じられるレストランだ。

画像: 新函館北斗駅から徒歩5分。全12席のぬくもりと落ち着きが感じられる店内

新函館北斗駅から徒歩5分。全12席のぬくもりと落ち着きが感じられる店内

住所:北海道北斗市市渡1 - 7 - 5 tete hokuto 1 F
TEL:0138-77-0707(完全予約制)
営業時間:木~日曜17:30~21:30( L.O.18:30)
@climat[レストラン]  @climat_hokuto

text by Tomoko HONMA
photographs by Tateyuki TABUCHI

画像2: ≪Gourmet≫ 道南の「風土」を五感で表現「climat」

進化する道南エリアのワイン旅<vol.1函館エリア>はこちら

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