「いいワインはできない」。かつてそう評されたマスカット・ベーリーAの可能性を信じ挑戦を重ねる「シャトー酒折ワイナリー」。醸造責任者・井島正義氏が歩んできた軌跡をたどる。
日本固有の品種として近年は海外からも注目されるマスカット・ベーリーA。しかしかつては、品種特性であるフォクシーフレーバー、いわゆるキャンデー香が否定的に捉えられ、不遇の時代が長く続いた。
輸入洋酒の販売を手掛ける「木下インターナショナル」が山梨県甲府市に「シャトー酒折ワイナリー」を設立した1991年当時も「マスカット・ベーリーAは食用で、ワインには向かない」という認識が一般的だったと、醸造責任者の井島正義氏は振り返る。だが99年、色が濃く凝縮感のある食用品種を口にし、「いいワインになるかもしれない」と直感。翌年に仕込んだワインは想像を超える出来で、井島氏は樽熟成にも挑んだ。

井島正義氏
「シャトー酒折ワイナリー」
醸造責任者。「マスカット・ベーリーA は栽培しやすく病気にも強い、日本の風土に適した品種」としつつ、「どこまで熟成できるのか、畑によってどう変わるのかはまだ未知数」と語る。そこに挑むことで「従来のイメージを超えるマスカット・ベーリーA のワインが生まれるはず」と力を込める
「2000年以降、僕らだけでなく山梨県内の複数のワイナリーが同時期に樽熟成を始めました。マスカット・ベーリーAの歴史において大きな転換期だったと思います」
それから25年。現在シャトー酒折では、マスカット・ベーリーAを使ったワインを全8種手掛ける。
「これほど多彩に展開しているのは珍しいかもしれません」と井島氏は語る。樽を使うか否か、畑や栽培家の個性、栽培方法の違い。他に類を見ない幅広いラインナップは、すなわち品種の可能性を追求してきた証しといえる。

2001 年、初めて樽熟成に挑んだマスカット・ベーリーA。完熟した果実の濃い色合いを見て、井島氏が〝こっそり〟樽に入れたのが始まり。試飲会で高い評価を得て、残りのワインも樽へ─熟成の可能性を開いた記念すべき1本。熟成を経たその味わいは、落ち着いた質感でしなやかな果実味がありエレガントだ

一つの品種から生まれる多彩な表情。栽培方法の違い、畑の違いがグラスの色に映し出される。
左から、棚栽培の『エステートマスカットベリーA 2023年』(3630円)はいわゆる“薄旨系”。シルクのようなきめ細やかなタンニンと滑らかな酸味、出汁のような旨味が広がる。
『マスカットベリーA 樽熟成i-vines vineyard 2018年』(2640円)と『マスカットベリーA 樽熟成 キュヴェ・イケガワ 2021年』(3850円)はともに垣根栽培、樽熟成だが、果実の選抜が異なる
同ワイナリーは栽培家と連携し、良質なワインを生み出してきた。その一人が農業法人「アイ・ヴァインズ i-vines」を率いる池川仁氏だ。池川氏が育てるブドウの中でも完熟厳選されたものは「キュヴェ・イケガワ」シリーズに。選抜されなかったブドウは「i-vinesvineyard」シリーズに仕込まれる。また、栽培家・保延(ほのべ)氏のブドウは「honobevineyard」としてワインとなる。
「畑や栽培家によって香りや味わい、表情が大きく変わる。飲み比べれば驚きがあると思います」と井島氏は言う。
さらに自社畑では、マスカット・ベーリーAでは珍しい垣根栽培にも挑戦。棚栽培のブドウに比べて色調は淡いが、旨味が豊かで出汁のような風味も感じられるという。
「長期熟成の可能性、樽の使い方など、まだ検証しきれていないことが多い」と井島氏。栽培家とともに歩むチームの挑戦は、今後も続いていく。

左から『マスカットベリーA 樽熟成 キュヴェ・イケガワ 2021年』(3850円)、『マスカットベリーA アンウッデッド キュヴェ・イケガワ 2023年』(2860円)、『マスカットベリーA アンウッデッド honobe vineyard 2024年』(2200円)、『マスカットベリーA 樽熟成 2019年』(1980円)、『マスカットベリーA クレーレ i-vines vineyard 2024年』(1980円)、『マスカットベリーA ロゼ にごりスパークリング 2024年』(2200円)
※価格はすべて税込

「シャトー酒折」
山梨県甲府市酒折町1338-203
TEL. 055-227-0511
https://www.sakaoriwine.com/
見学可※ソムリエ、スタッフによるツアーは要予約
「シャトー酒折」ワイナリーショップ売れ筋TOP3

1位
『甲州ドライ2024』
(税込1980 円)
フレッシュなすっきり辛口の甲州。「伊勢志摩サミット」でも供された、「シャトー酒折」を代表するワイン。

2位
『甲州にごり』
(税込)1980 円 ※季節限定販売
発酵直後のワインを濾過せず瓶詰めした、淡いにごりが特徴のフルーティーな新酒。

3位
『勝沼甲州2024』
(税込)2530 円 ※ワイナリー限定販売
女性醸造家・藤本広美さんが手掛ける1本。複雑なアロマと深みのある味わいが特徴のオレンジワイン。

